通貨は4つの種類に分けられる
各国で中央銀行(以下、中銀)発行のデジタル通貨の実証実験が始まっています。デジタル通貨の勢力図は今後どうなるのでしょうか。
一般的に、通貨は図のように分類できます。まず、強権を持つ国や組織が発行などを一元管理する集中管理型(以下、集中型)と、ネットワーク上の複数の参加者が対等な立場で管理する分散管理型(以下、分散型)です。
集中型には国(の中銀)が発行する円やドル、民間企業が発行するPayPayやSuicaなどがあります。供給量などをコントロールしやすい半面、管理に莫大なコストがかかります。
分散型では取引情報を「ブロックチェーン」というしくみで共有するビットコインなどの暗号資産が典型です。中央機関を持たないので、運用コストが抑えられ、参加者が取引を相互に監視し、信頼性や安全性が保たれます。インターネット上で海外送金も安価で簡単に行えます。ただ、管理権限が分散しており、機動的な意思決定が難しく、コントロールしにくいのが難点です。
通貨の価値が固定されているステーブルと、価格が変動するノンステーブルとに分けることもできます。
為替相場で価格が動く円やドル、売買で価格が変動するビットコインなどがノンステーブルです。円やドルは、価格が変動しても集中型のため、中銀が発行量を調節したり、為替に介入したりして、通貨としての安定を保つことができます。一方ビットコインは投機的な売買で価格が乱高下すると、分散型のため、円やドルのように管理者が価格維持のために介入できず、通貨としては使いづらくなっています。
ステーブルの代表例は電子マネーです。PayPayやdポイントは1ポイント1円、Suicaも円と同じ価値を持ちます。発行企業が流通量と同額の現金を準備金として保有し、価値の裏付けがあるため、消費者は安心して使うことができます。金の価値の裏付けがある金貨もステーブルです。実はドルに価値が固定されているテザーなど、ステーブルの暗号資産もあり、注目が高まっていますが、価値を維持するだけの準備があるのかといった不安もあり、存在感はいまひとつです。
信頼性があり、価値固定の「いいとこどり」をめざす通貨
さて、分散型で運用コストが安く、国がバックという信頼性があり、価値固定の「いいとこどり」をめざす通貨が中銀発行デジタル通貨です。納税に使える点でも有利で、10年以内に実装されると思われます。ただ、私たちの実感はあまり変わらないでしょう。消費者や個々の企業にとっての中銀デジタル通貨のやりとりは、従来の口座送金と同じように見え、違うのは管理手法だけだからです。
電子マネーは規格間競争が一巡し、交通系といずれかのポイント2、3に集約され、現状の乱立状態は数年もすれば落ち着くと予想されます。なお、暗号資産は投機対象としての魅力や、自国通貨の信用力の低い途上国での利用がどれだけ広がるかで10年後の意味合いが大きく変わってくるでしょう。