自ら考え、発言することができなくなった高校生

2020年の高校1年生は多くが6月まで登校できず、オンライン授業ができた高校はまだ良いが、実際には1人1台のタブレットPCやノートパソコンも無く、プリントの宿題をやっていただけだった高校も多い。ネットの記事では、最新のICT教育を駆使して、難なくコロナ禍を乗りきったような名門私立高校の記事が散見されるが、公立高校、中でも学力が低い教育困難校、進路多様校と言われる高校では、単なる長い春休みになってしまった事例もある。

私が訪問したある高校では、臨時休校中の生徒は、コンビニやファストフード店など、フリーWi-Fiがある店の前にたむろし、スマホゲームをやっているだけだったと教員は嘆いていた。6月に学校が再開された後は、遅れを取り戻すために、夏休みも短縮して躍起になって詰め込み授業が行われた。ここで犠牲になったのが、じっくり物事を考える探究学習や、コミュニケーション能力を高めるアクティブ・ラーニングである。生徒同士が語り合うグループディスカッション、プレゼンテーションなどはコロナで最も避けられ、一方的に教員の授業を聴く詰め込み受験体制に戻ってしまった。一部のうまくいっている名門高校以外の大多数の高校で、こうしたことが起きている。私の講演でも、事前にいくつもの仕掛けをしているにもかかわらず、手を上げて発言する生徒は再びいなくなってしまった。筆者の力量不足もあろうが、教育改革がコロナで頓挫してしまった影響も大きいと思われる。

自学自習できる子・そうでない子に広がる学力格差

「手を上げて発言できなくても、勉強さえできれば大学受験に影響はないのではないか」と思われる方は、大学入試の変化に関心を持ってほしい。すでに、国公立大学の募集人員は総合型選抜にシフトしている。2021年度は7157名に達し、学校推薦型選抜も合計すると、国公立大学全体13万人の入学定員のうち2万7000名が推薦だ。まだ2割強ではあるが、今後は3割程度にまで高まると予想されている。東大、京大ですらも推薦を実施し、これまでの点数競争ではない多様な能力のある人材を求めている。私立大学に至っては、受験の難関校とされる都市部の有名私大でも、推薦で5割、6割を入学させている大学はザラであり、慶應義塾大学法学部の一般選抜の入学定員はわずか38%にすぎない。

教室で勉強する女子高校生
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

(参考)
私立大の二期入試は志願者激減、国公立大学の総合型選抜シフトでさらに減少も | 大学ジャーナルオンライン
文部科学省「国公立大学の入学者選抜 令和3年度入学者選抜について

本間正人、山内太地著『高大接続改革─変わる入試と教育システム』(ちくま新書)
本間正人、山内太地著『高大接続改革─変わる入試と教育システム』(ちくま新書)

総合型選抜、学校推薦型選抜で求められる能力は、英語や国語、数学などの点数の力だけではない。自ら能動的に学び、それを小論文や書類選考、面接で表現できる力である。推薦入試が増えたのと、高校でアクティブ・ラーニングが推進されてきたのは、「高大接続改革」の名の下に高校教育、入試改革、大学教育の3つを同時に改革しようとした文部科学省の政策であり、大学入試改革こそ混乱と頓挫の状況にあるが、大学の教育改革、そして最も腰が重い高校の教育改革も、ようやくスタートし、徐々に効果を上げ始めていたのが、コロナで元に戻ってしまった。

ごく一部の、オンライン授業や教育改革に成功した高校は、進学実績で大きな成果を上げるだろうが、大多数は教育改革の失敗と退化により、新しい時代に即した人材育成ができないまま終わろうとしている。

高校のアクティブ・ラーニング型授業の推進を前提とした高大接続改革に筆者は大いに期待して、これを後押しする新書『高大接続改革』を刊行したが、改革自体はコロナで頓挫している。