「今、我慢できるか」は幸福度にも影響する

さらに、「将来のために今どれだけ我慢できるか」という点は、各個人の幸福度とも関連することがわかっています。

西イングランド大学のジェームズ・ケネディ氏の研究によれば、将来を見据え今我慢できる人ほど、幸福度が高くなる傾向にあることがわかっているのです(※5)。京都文教大学の筒井義郎教授、大阪大学の大竹文雄教授、関西学院大学の池田新介教授の日本人を分析対象とした共同研究でも同じ結果が得られています(※6)

今の楽しみよりも、将来を見据えて忍耐強い行動をできる人ほど幸せになれる。これは重要なポイントです。

ケネディ氏の分析では、この背景として、将来を見据え今我慢できる人ほど、状況に適応した柔軟な意思決定ができることを指摘しています。また、将来を見据え今我慢できる人ほど、幸福度に大きな影響を及ぼす健康やお金の面で良い結果を得やすいという点も理由としてあげています。

重要なのは「宿題を早めにやること」ではない

さて、本記事から得られる教訓は何でしょうか。

もちろん、「夏休みの宿題を早めに終わらせましょう」……ではありません。

宿題を早めに終わらせるのはあくまでも表面的なものであり、本当に重要なのは、「今」よりも「将来を見据えた」行動をとるように心がけ、実際に行動するという点です。

将来を見据えて今我慢できる人ほど、健康、お金だけでなく、幸せの面でもより良い結果が得られる傾向があるためです。

今よりも将来を見据えた行動の重要性は、さまざまなビジネス書や自己啓発書で何度も言及されている点であり、読者の方の中でも御存知の方も多いと思います。その点において目新しいものとは言えません。

ただ、それだけ多くの書籍で指摘されていることは、本当に重要な点であり、より良い人生を送っていくうえでの基本となるのではないでしょうか。

※5 Kennedy, J. (2020) Subjective wellbeing and the discount rate. Journal of Happiness Studies, 21, 635-658.
※6 筒井義郎・大竹文雄・池田新介(2005)「なぜあなたは不幸なのか」ISER Discussion paper No 30 Mach, The Institute of Social and Economic Research Osaka University

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。