技術があるからこそ……資生堂に必要な“ある力”
このような特徴のある中国市場を制するのであれば、資生堂は世界一を目指さなければいけないでしょう。資生堂は、技術開発力はとても高いだけに、コンセプト開発力をもっともっと高めていく必要があるのではないでしょうか。ヘアケア製品の「TSUBAKI」ブランドを、利益が出ないという理由でファンドに売ってしまいましたが、「日本の女性は美しい」以降のブランドコンセプトを打ち出せませんでした。新興ブランドの「ボタニスト」が「植物と共に生きる、ボタニカルライフスタイル」というコンセプトで、TSUBAKIよりも高価格帯(高利益率)の市場を開拓したのとは対照的です。
また、機能を超えて人々を魅了する、ブランドコンセプトが必要です。ヘアケアのような日用品でも、ナンバーワンブランドのラックスには、「ハリウッドスターのようなプリンセスになる」という明確な魅力があります。ましてや、化粧品ブランドなら、理屈を超えた、憧れやドキドキするような魅力が必要でしょう。
しかし、資生堂に取材した記事などを読んでいると、「何がいちばんの売りですか」という質問に対して延々と技術的な説明をしているケースが多い。ひと言で人をハッとさせたり、ドキドキさせたりするキーワードやコンセプトが出てこない気がします。
メッセージが伝わってこない
世界的なブランドを目指す「SHISEIDO」が、スキンケアに注力して発売した美容液「アルティミューン」も、「血のめぐり」に着目して「美のめぐり」というブランドコンセプトを作り上げたことはわかるものの、このブランドが伝えたいメッセージや心に響くエモーショナルな(情緒的な)魅力、社会的な存在意義などはあまり伝わってきません。その状態でいきなり「ブランドアンバサダーは宇多田ヒカルさんを起用します」と発表されているのは、いかにも残念です。
「どうやったらブランドのプレステージを高めていけるか」「こういうブランドになれば世界でいけそうだ」という根本的な戦略が構築されないまま、「肌をきれいにする、こんなメカニズムや成分を発見」「よし、宇多田だ」となる。かつて資生堂はいいものをつくって、あとは広告の力で「どうだ!」と売り出すのを得意としていましたが、いまも根本的には変わっていない印象を受けます。
技術的な研究開発力があり、非接触の肌診断機器などの新しい取り組みにも積極的な資生堂。それらを統合し世界を魅了するブランドコンセプトの開発力が高まったとき、最高峰ブランドを求める中国でも欧米ブランドを凌駕してナンバーワンブランドになる日がくるに違いありません。
構成=長山清子
大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。他に『インサイト実践トレーニング』『戦略インサイト』(ともにダイヤモンド社)など。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っており、消費財・サービス・テック系企業などで実績多数。インサイト オフィシャルページ