大人の責任を果たすために

日本は世界のポルノの約6割が作られる「性産業先進国」と呼ばれる一方で、性教育はかなり遅れている。「臭いものに蓋をしろ」「寝た子を起こすな」の一点張りで、国が子どもを守る責任を果たしていない。

私が大学1年の時、1人の教員から「この大学には怪しいカルト宗教に勧誘する学生グループがいる。彼らは友達のいない孤独な新入生を狙うから気をつけろ」と注意された。こうして臭いものに蓋をせず、落とし穴があることを教えるのは大人の責任だろう。

大人の責任を果たすために、私たちはフェミサイドから目をそらしてはいけない。自分の生きづらさを女性のせいにして、女性を狙って加害する男性がいること。女性への憎悪や差別を強化するコミュニティがあること。その現実にしっかり向き合って、「フェミサイドを許さない」という姿勢を強く示すべきだ。

「被害者は自分だったかもしれない」

ネット上で「#フェミサイドを許さない」とツイートしているのは大半が女性である。

女性がこの事件についてまず思うことは「被害者は自分だったかもしれない」だろう。それは女として日常的に加害されてきたからだ。

子どもの頃から道で卑猥な言葉をかけられたり、すれ違いざまに触られたり、しつこくナンパされたり、断ったら逆ギレされたり、電車で何度も痴漢に遭ったり……大半の女性がそうした被害を経験している。

性犯罪の加害者の95%以上が男性、被害者の90%以上が女性である。というと「加害者扱いされたくない」とムッとする男性がいるが、ほとんどの男性が加害者じゃないことは百も承知だ。

そしてほとんどの女性は何らかの性被害に遭っていて、ほとんどの男性は性被害に遭ったことがない。その非対称さゆえ、被害者目線で考えづらい男性が多いのは事実だろう。

男性たちに女性が日常的に加害されている現実を知ってほしい。加害者でも被害者でもなく、傍観者として自分に何ができるのかを考えてほしい。そんな思いから「#性暴力を見過ごさない」という動画を作った。

動画の最後には以下のナレーションが入る。

「性暴力を見過ごさない」
みんなが声を上げて行動すれば、性暴力をしにくい社会に変えていけます。
あなたにできることは、何ですか?

「自分には関係ない」と目をそらさないこと。「フェミサイドを許さない」とみんなが声を上げて行動することが、社会を変える鍵になる。

国連のスピーチで俳優のエマ・ワトソンが「悪が勝利するために必要なたった一つのことは、善良な男女が何もしないこと」と話していた。つまり、善良な人々の無関心と沈黙である。

私は沈黙する善人になりたくない。私たちは、何もかもはできないけれど、何かはできる。自分にできることは何だろう? と考えて、声を上げる善人が増えることを願っている。