売り場が変わるとマインドが変わる

このように冷凍食品の高級化が進んだのは、売り場が変わったからだと私は思います。これは私の仮説ですが、「冷凍食品はあまり買わないんだよね」という人は、いままで冷凍食品の売り場にほとんど行かなかったのではないでしょうか。売り場を素通りするから、永遠に買わない。

しかし新しい売り場では、生の肉や魚のすぐ隣に、冷凍ものの肉や魚が並んでいます。だからいつもの肉や魚を買いに来た人に、冷凍ものが目に留まるようになった。

逆にふだん冷凍食品をよく買う人にとっては、198円のシューマイの横に「パエリア980円」が置いてあると、「高い!」と感じてしまって、やはり買わない。でもそれにふさわしい売り場であれば、「買ってもいいかも」と感じるのです。

まだリピート買いをするほど定着はしていない

人間は無意識に「ここでは何を探す」というマインドを持って買い物をしています。だからそこに突然異質なものがあると、並んでいるのに目に入らないということが起きる。また目に入ったとしても、心に決めた予算は、よほどのことがなければ変更されません。たとえばアイスを買いに行ったとき、ガリガリ君の横にハーゲンダッツがあっても、ガリガリ君はガリガリ君でおいしいから、「これでいいや」となる可能性がある。だから売り場を分けたのは大正解だと思います。

しかしこの新しい冷凍食品の売り方はまだ始まったばかり。僕が観察していると、商品を見ている人はけっこういるものの、まだお客さんが買っていく瞬間を目撃したことがないのです。

パッと来てパッと買う人が少ないというのは、値段が高いこともあるし、まだリピート買いをするまで定着していないということでしょう。そこまでいくには、まだ多少時間がかかりそうです。

しかし魚や肉の冷蔵ケースの横に縦型の冷凍ケースを置くには、おそらく店舗改装が必要だったはず。ということは、経営陣もそれなりに覚悟のうえで始めたことでしょう。しばらくは様子を見守りたいと思います。

構成=長山清子

桶谷 功(おけたに・いさお)
インサイト 代表取締役

大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。他に『インサイト実践トレーニング』『戦略インサイト』(ともにダイヤモンド社)など。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っており、消費財・サービス・テック系企業などで実績多数。インサイト オフィシャルページ