結論も根拠もない人の場合

なかには、結論もなければ根拠もない人もいます。

商談やプレゼンテーションの場だったら、困ってしまいますが、日常生活の中ではよく耳にするのではないでしょうか。友達同士、家族同士で話すときには、結論や根拠もなく、起承転結もない話がほとんどです。

ピラミッドというのは、相手を動かすときに必要なものです。そうした場面とは別に、ただ話を聞いてほしい場面というのもあるわけです。

ヤフーでは週に1度、マネージャーとメンバーが1on1ミーティング(1対1で行なう対話)を行ないます。もちろん仕事の話をすることが多いですが、「最近どう?」「いや、実はプライベートでショックなことがあって、そっちが気がかりなんですよね……」といった感じで、とりとめもない話をすることもあります。

そういうときは、頭の中のピラミッドを一旦捨て、「うん、うん」とうなずきながら、相手の話を受け止めることに集中します。

誰でも、嫌なことがあったり、逆に嬉しいことがあって、とにかく誰かに聞いてもらいたいと話したのに、「うん、それで結論は?」「どうしてそう思ったのか、根拠がわからないよ」と言われたら、カチンとくるのではないでしょうか。

恋人や友人同士の会話で「上司がこんなむかつくことを言うのよ。私も一生懸命頑張ってるのに、ひどいと思わない?」と、ただ共感してほしいから話をしているだけなのに「それは相互理解のためのコミュニケーションが足りないのではないか。それを解決するには、まず第一に……」などと、問題解決のための方法を伝えてしまい、「あなたは何もわかっていない!」と言われるような経験も、皆さん、ありませんか。

相手は「ただ話をしたい」のか、「解決したい」のか

相手が「ただ話をしたいのか」、それとも「問題を解決したいのか」ということを見極めて、「聞く力を切り替えること」が大事です。

マネジメントにおいて、メンバーがいきいきと仕事ができる環境をつくることは大事な仕事の1つですから、メンバーが抱えている問題をロジカルに解決するサポートをするのと同時に、精神的にもよいコンディションで働けるようにケアする必要があります。そのために、相手が抱えている感情的なモヤモヤを解決するサポートをしたいのですが、感情的なモヤモヤはロジカルに解決することはできません。

マネージャーがずっと左脳型の「聞く力」ばかりだと、メンバーは「ちょっと困っていることがあるんだけど、ちゃんとした結論も出ていないし、もう少し考えてからにしよう」などと思って、なかなか相談してくれなくなるかもしれません。「あの人に言っても、理詰めで返されるだけだから、きっとわかってくれないな」と考えてしまうからです。

ピラミッドを一緒につくる左脳型の「聞く力」。受け止めて、共感することにフォーカスする右脳的な「聴く力」。この2種類が必要なのだと思います。

伊藤 羊一(いとう・よういち)
Zアカデミア学長

武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長。東京大学経済学部卒、日本興業銀行、プラスを経て2015年よりヤフー。現在Zアカデミア学長としてZホールディングス全体の次世代リーダー開発を行う。またウェイウェイ代表、グロービス経営大学院客員教授としてもリーダー開発に注力する。2021年4月に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)の学部長に就任。代表作に52万部超ベストセラー『1分で話せ』。ほか、『1行書くだけ日記』『FREE, FLAT, FUN』など。