科学分野の男女比率はほぼ半々

ギルバート教授が率いるチームは、リーダー、研究員、技師など半数が女性だが、英国の科学分野の職場では珍しくない。理科系の学位を持ち、科学者や技師として働いている女性は多く、昨年2020年9月の統計では46.4%と、男性とほぼ同数に迫っている。科学以外の理工系分野では、まだ技術職を希望する女性が少ないこともあり男性8割に対し女性2割程度だが、女性の比率は年々上がってきている。

女性が増えている理由は複数あるが、第2次世界大戦後から政府がSTEM(科学、技術、工学、数学)と呼ばれる理工系分野への女性進出を推し進めてきた結果が、やっと出てきたことは確かだろう。英国では小学生のうちからSTEM分野の教育に力を入れており、キャリア教育でもSTEM分野の職業を重点的に取り上げるなどの取り組みを進めてきた。

当初は、男女平等実現のためというよりも、戦争で失われた男性労働者を補うための施策だった。賃金や地位の格差は歴然としていたが、強い意志を持つ女性たちがリーダーシップの道をひらいた。理工系の科目に女子が興味を持つことに対する偏見も、地道なSTEM啓蒙教育によって払拭ふっしょくされつつある。

オックスフォード大学ジェンナー研究所
© University of Oxford/John Cairns
オックスフォード大学ジェンナー研究所

パートナーが子育てのため転職

ギルバート教授は、自分が良いパートナーに恵まれたと語る。博士研究員(ポスドク)時代に、研究仲間だったブランデルさんとの間に三つ子をもうけた。英国のチャイルドケア費用は高額で、子ども3人分の託児費は研究員の給料では到底まかなえない。ブランデルさんは、迷わず研究職を辞し、定時で帰宅できる大学の出版局に転職。以来、家事と育児を司る「家庭のリーダー」となった。ギルバート教授のほうは、フレックス制度を利用し、家事や育児ではブランデルさんのサポート役にまわった。「子育ては完全なチームワーク。できる方ができることをやればよい」という姿勢を貫いているという。

その三つ子(1男2女)は今、オックスフォード大学とバース大学で、両親と同じ生化学を学んでいる。3人はそろって、母親が開発したワクチンの最初の臨床試験に密かに応募し、接種会場に現れてギルバート教授を驚かせたそうだ。同じ遺伝子をシェアする三つ子の治験参加は、ワクチンの効果を解析する上で、貴重なデータを提供することになった。