「男性は大黒柱」「女性は家事育児」を捨てる

間違った思い込みや賃金格差は、やはりジェンダー・ステレオタイプを引きずっていることが原因のように思います。ステレオタイプを崩すには、「男性は大黒柱であるべき」「女性は家事育児を担うべき」、この2つの意識をセットで変えていかなければなりません。

家庭と仕事のどちらにどのぐらい比重を置きたいか。総合職で働きたいのか一般職で働きたいのか。いずれも「男だから」「女だから」ではなく、本人が納得できる形を選べる、その選択肢があるということが大切だと思います。

辞める人が続出しては意味がない

丸紅については、今後の推移も注視していくつもりです。女性総合職をたくさん採用しても、その後に辞める人が続出するようでは意味がありません。商社は転勤も長時間労働もあり、会社都合の働き方が根強く残る業界です。入社したのはいいけれど「男社会すぎて活躍しにくい」と感じる女性もいるかもしれません。

そうなれば、「やっぱり女性は早く辞める」という偏見が「事実」になってしまうという負のループに突入してしまいます。社会学では、人々が思い込みに基づいて行動した結果、その思い込みが実現してしまう現象を「予言の自己成就」と言います。丸紅の採用戦略も、正しく評価するには「その後」を見ていく必要があるでしょう。

女性が半数に達すれば、これまで男性たちが続けてきた、仕事にすべてを注ぎ込む働き方も変わっていくはずです。男女とも家事育児や介護との両立を前提に働く、そんな風土ができあがっていく可能性もあります。

丸紅は、今後は働き方も時代に合った形に変わっていくと判断したのだと思います。そして、思い切った変革を行うよりも、今の状態を続けることのほうが、リスクが高いと考えた。この判断はとても妥当だと感じています。

丸紅は人材戦略のひとつに「多様性」を掲げています。この言葉には、女性だけでなくLGBTや障害者、外国人も含まれているはずです。その中で、まずは女性採用を掲げて男社会にくさびを打ち込みました。同質的集団から脱却するために、これから他にどんな改革を行っていくのか、引き続き注目していきたいと思います。

構成=辻村 洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。