“少数派”も暮らしやすい社会の実現は急務

セパレートの思想は産業革命によって均質な労働者を確保するために生まれました。学校がその典型です。そして、セパレートの思想は均質な労働者に加えて、国民皆兵にも合致したため、国民国家の中で急速に市民権を得ていきました。それ以前の人間社会はインクルージョンの社会でした。つまり、セパレートの思想のほうがずっと新しいのです。

インクルージョンの思想に基づけば、事業主に一定割合の障がい者を雇用するよう義務づけている障害者雇用促進法は意義あるものといえます(民間企業は2.2%、国や自治体は2.5%)。

ところが、2018年には、国や自治体が、障がい者の雇用率を水増しするという、実に情けない事実が次々と発覚しました。

2周も3周も周回遅れの日本で、LGBTQや障がい者など少数派の人たちが安心して暮らせる社会の実現は、急務です。少数派の人たちに優しい社会は、実は多数派の人たちにとっても暮らしやすい社会なのです。

ちなみに最近の僕は、LGBTQより広い概念であるSOGI(Sexual Orientation & Gender Identity 性的指向と性自認)という言葉を、なるべく使うようにしています。

出口 治明(でぐち・はるあき)
立命館アジア太平洋大学(APU)学長

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年退職。同年、ネットライフ企画(現・ライフネット生命)を設立し、社長に就任。2012年に上場。2018年より現職。読んだ本は1万冊超。主な著書に『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『全世界史』(上・下、新潮文庫)、『一気読み世界史』(日経BP)、『自分の頭で考える日本の論点』(幻冬舎新書)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『人類5000年史』(I~IV、ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義』シリーズ(文春文庫)、『日本の伸びしろ』(文春新書)、『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『復活への底力』(講談社現代新書)、『「捨てる」思考法』(毎日新聞出版)など多数。