相手もうすうす気づいている

森山至貴『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』(WAVE出版)
森山至貴『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』(WAVE出版)

でも、「とにかく」は逆のことも示しているように私には思えます。つまり、本当は納得してもらう必要があるはずだと、無理強いする側もうすうす気づいているのではないでしょうか。乱暴な拒絶は、説明しない自分に後ろめたさを感じていることの裏返しです。であるならば、その後ろめたさに訴えかけてはどうでしょうか。

「あなたのためを思って言っているんだよ」と押し切られそうになったら、「どうして私のためになるのか説明してほしい」と切り返しましょう。誠実な人であればきちんと説明してくれるはずです。仮に納得できなくても、そこには対話の余地が生まれるのですから無理強いよりはずっとマシです。

おそらく、説明を拒絶される場合も多いでしょう。そのときは、説明する気もない人は放っておいて、自分の好きなようにすればよいのです。

ぬけ出すための考え方

根拠を説明できないのに他人の行動をしばろうとするとき、「あなたのため」が登場します。私のことが大事なら、私が納得できる説明が必要だとわかっているはず、と伝えて対話の機会を引き出そう。

もっと知りたい関連用語
【自分のため/あなたのため】
ドラマ『相棒』の第10シリーズ「アンテナ」の回、主役の杉下右京が引きこもりの青年にこう語る場面があります。
「人は100%だれかのためにだけ話をすることはできません。必ず主観というものが入りますからねえ。たとえそれが親でも。そして、あなた自身もそうなんですよ。ですから相手の言葉に主観が入っていても、それはあなたを裏切ったことにはならないんですよ」
「主観」を「自分のためになる要素」と読みかえたとき、「自分のため」だからずるい、とは言い切れないと私は考えるようになりました。
【パターナリズム(paternalism)】
「あなたにとってよい選択肢は私が知っているのだから、あなたはそれにしたがえばよい」という考え方を、パターナリズムと呼びます。「パターナル(父の)」は英単語のfatherと同じ語源です。一家の稼ぎ手である父親が、経済力を持たず自力では生活できない妻や子どもの生き方をコントロールすることを批判するために使われはじめた言葉です。
単にしたがえ、ではなく、「それがあなたにとってよいことだから」という理由が持ち出されるのが、この考え方の巧妙でずるいところです。
森山 至貴(もりやま・のりたか)
早稲田大学文学学術院准教授

1982年神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻(相関社会科学コース)博士課程単位取得退学。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻助教を経て、現在、早稲田大学文学学術院准教授。専門は、社会学、クィア・スタディーズ。著書に『「ゲイコミュニティ」の社会学』『LGBTを読みとくークィア・スタディーズ入門』『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』『10代から知っておきたい 女性を閉じこめる「ずるい言葉」』。(プロフィール写真:島崎信一)