絶望するのではなく「のびしろが大きい」ととらえたい

【太田】男性の育休の取得率に関しても、増えてきたとはいえ2019年度は7.48%です。上の世代の上司が壁になっていると聞きます。育休取得率の低さは男性の権利が侵害されているという問題でもあります。「女性はとれるのに、なぜ男性は育休を取れないんだ!」と男性自身が問題意識を持ち、もっと怒ってもよいのですが……。

【村瀬】北欧では男性の育休取得率が8割近くの国もあります。日本の男性は育休取得中に保証される賃金も世界でトップクラスなのに、取得する人が少ない。制度が整っているのに取得率が低いということは、育休を取りづらい社会の空気があるからでしょう。

【太田】部下が育休を取らないと、その上司の人事査定が下がるなど、トップダウンで牽引していかなければならないのかもしれません。

【村瀬】ただ、国のトップも頭のかたいおじいさんばかりで、男女平等とは程遠い価値観の人たちが居座っています。社会を変えるにはそこが変わらないといけませんね。

【太田】問題がどこにあるかは明確になっていますから、そういう意味では、「なかなか変わらない」と絶望するのではなく、「のびしろ」が大きいのだととらえましょう。若い世代や女性など、より多様な人たちが政治の中枢や組織のトップに入って意思決定に関わるようになれば、大きく変わる可能性があると思います。

太田啓子さん
撮影=プレジデントウーマンオンライン編集部
太田啓子さん

夫婦で対等な関係を維持する難しさ

【太田】ただ、夫婦の関係性もなかなか変わりませんね。私は離婚事件で妻の代理人になることが多いのですが、世の中のマクロな性差別構造が、ミクロな夫婦関係にスライドしているという印象があります。離婚に至る背景には、夫婦間の「対等ではない」関係性が大きく影響しています。

性的DV(ドメスティック・バイオレンス)も多く、「妊娠したくない」という妻の意思に反して夫が避妊をしないとか、セックスを断ると夫が不機嫌になりモノに当たったり口調が荒くなったりするなどのほか、暴力を振るったりとレイプに近いものもあります。そのような状況に耐えられずに精神疾患を発症した例も少なくありません。

【村瀬】「男らしさ・女らしさ」の呪縛から生まれるもっとも深刻なものは、性別の役割分業と男主導の性行為です。「セックスは、対等な関係にもとづくセクシュアルプレジャー(性的なよろこび)である」という意識がないまま大人になってしまう。日本では大多数の男女がそうだと思います。

【太田】過去に対等だったとしても、お互いに意識し続けないと関係は簡単に崩れます。恋人時代に対等であっても、結婚し、子どもが生まれたりすると変わることがありますよね。夫婦間で収入格差があればなおさらです。経済力は権力に結びつきやすく、「誰のおかげで生活できると思っているんだ」なんて言葉が出てしまう。夫婦で対等な関係性を維持するためには、不断の努力が必要です。