一番の問題は経営者がテレワークをやりたがらないこと

出社せざるをえない社員とテレワークができる社員の間の不公平感はどの企業でも発生している問題だ。しかし、それ以上に問題なのは経営者がテレワークをやりたがらないことだと人事担当者は言う。

「緊急事態宣言下もそうだったが、オンラインでのWeb会議を嫌う経営陣も多い。『やはり対面じゃなければちゃんと意思疎通もできないし、ダメだな』と公言する役員もいる。経営者も『とくに営業は対面あっての商売』と言ってはばからないし、本音はテレワークをやりたくない。その結果、テレワークを積極的に推奨することもなければ、社内ネットワークシステムの整備やペーパーレス化も進んでいない。緊急事態宣言中は極力テレワークをするように言っているが、解除されたら元に戻るのは必至だ」

オンラインより対面重視の考え方を持つ経営者は中小企業に限らず意外と多いという話も聞く。パーソル総合研究所の「テレワーク実態調査」(2020年11月18日~23日調査)によると、テレワークをしていない人にその理由を聞くと「テレワークで行える業務ではない」と答えた人が2020年5月以降減少している一方で、「会社が消極的で、実施しにくい」と答えた人が5月の8.1%から10.4%に増加している。この結果を見ても、テレワークの実施を阻んでいる元凶は「経営者」であることはほぼ間違いないだろう。

ワクチン普及後は「原則全員出社」が3割超

同調査ではワクチンが普及した後の企業のテレワーク方針も聞いている。「原則、全員出社にする予定だ」が31.2%、「まだ決まっていない」が43.4%となっている。

未決定の企業がどうなるのか、興味深いところだ。

前出の倉庫業の人事部長は「今は緊急事態宣言で出社制限を要請されているのでテレワークを実施しているが、本音でテレワークを続けたいと思っている企業がどのくらいあるのか疑問だ。アフターコロナになって元に戻すのか、対面とテレワークを併存させていくのか、テレワーク主体でやっていくのか、この3つの選択肢があるが、大多数は全員出社に戻ると思う」と語る。

もし、出社が原則となれば世の中に喧伝されているテレワークという働き方のニューノーマルも幻想だったということになりかねない。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。