さらに、みんなが傷つきやすい状況にあるときは、必要以上にナーバスになりやすくなるもの。人は皆違うのだからもっと鈍感力を持つべきなのですが、誰もがなんとなく不幸であり、不幸な人のほうが攻撃力はより高まります。そして、夢を語る人の近くには夢を語る人が引き寄せられるように、同じような人が集まってきやすいのです。

生きていくことは思いどおりにはいかない

仏教の特徴を表す4つの教え(四法印)の一つに、「一切皆苦いっさいかいく」(この世のすべては苦しみである)という言葉があります。ここでいう「苦」とは思いどおりにならないという意味で、四苦八苦の四苦は「生老病死しょうろうびょうし」を指します。楽しいこともあるはずの「生きる」がここに入っているのは、結婚にせよ、職業にせよ、人間関係にせよ、人生は自分の思いどおりにいくわけではない、想定外のことが起こるからです。

その中で、苦を持つもの同士が、生きることや老いること、病にかかること、死ぬことを共に苦しみ、互いに支え合ったりご縁ができたりすることで、真の人間関係は築かれていきます。さらに、何もかも思いどおりにしたいという欲望や執着といった煩悩に気づくことによって、自己解放していけばよいのだと説いています。

順風満帆で生きてきた人は、普段はどちらかというと苦しみに対して共感的ではないのですが、この不条理な出来事が起きたことによって共感・共苦の感覚が出てきたように思えます。共に苦しむところから思いやりに転じることができると、まさにそれがご縁を結ぶということになり、人と人とのつながりが回復していきます。一方で、その苦しみを孤独と無力感のほうに向けてしまうと、冒頭のように自分が他者に対して暴力的になるか、あるいは落ち込んで自傷行為をするかのどちらかになってしまいます。自分はどちらの方向に気持ちをリードしていくのかが問われているわけです。

一切皆苦の苦は毎日起こるわけではありませんが、ビジネスにしても、天変地異にしても、想定外のことが毎年起こっています。ということは、ほとんどの人は想定外のことが起こることを想定して、日々生きているということ。それでも実際に想定外のことが起こるとやはり傷ついてしまいます。特にセルフマネジメントが得意な人、サクセスストーリーを思い描いている人というのは、こういうとき何もかもできなくなることでフラストレーションを感じやすくなります。今はどちらかというとサクセスよりもレジリエンス(精神的回復力)のほうが重要なとき。想定外のことが起きたときに立て直す力が求められていると考えたほうがよいでしょう。

つまり、想定外の出来事を想定内のこととして生きるためには、自分を支えてくれる知恵を得ること、すべて人生に織り込み済みとしていく気構えが大切なのです。