認知症になると成年後見人を選任しなければ預金が引き出せない

認知症になってしまうと、預金の引き出しもできなくなる。老人ホームに入居するにも入居金の支払いができないし、本人の生活費を引き出すことすら難しくなってしまう。

「判断能力がなくなってしまった人の代わりに預金を引き出すには、成年後見人をつける必要があります」

成年後見人は、認知症などで判断能力が低下した人に代わって財産を保護してくれる人で、裁判所が選任する。成年後見人には、取消権が認められており、本人が悪質商法の被害に遭ってしまったような場合でも契約を取り消すことができるなど、被後見人の財産が保護される一方、本人でも財産を自由に処分することができなくなるし、親族でも成年後見人の同意がなければ預金を引き出すことはできない。

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また、成年後見人が一度選任されると、二度と取り下げができない、成年後見人に報酬を支払う必要がある、などのデメリットもある。

認知症になる前なら任意後見人を選ぶ方法も

「認知症になる前であれば、任意後見人を付ける方法もあります。判断能力がなくなった際に財産管理などを任せる人を本人が事前に決めておく方法で、この方法であれば本人が指定した親族がなることもできます」

ただ、任意後見人は、成年後見人よりも行使できる権利の範囲は狭い。成年後見人であれば判断能力が低下した本人が締結した契約を取り消すことができるが、任意後見人にはできない。

「第三の方法として、最近注目されているのが家族信託(民事信託)の利用です」

家族信託は、委託者が保有する財産を受託者に託し、受託者が委託者のために財産の管理・処分を行い、そこから得られる利益を受益者が受ける仕組み。三者の役割を整理すると次のようになる。

① 委託者=財産を保有する人で家族に財産管理をお願いする人
② 受託者=委託者から財産の管理をお願いされる人
③ 受益者=財産から利益を受ける人

たとえば、父親が①委託者・③受益者となり、長男を②受託者として信託契約を結んだ場合、父親が保有する預金は家族名義の預金となる。そのため、毎月必要な生活費を長男がその口座から引き出し、父親に渡すことができる。

父親が元気なうちに信託契約を結んでおけば、体力が落ちて銀行の窓口へ出向くのが億劫になった場合でも認知症になった場合でも、長男が代わりに手続きをすることが可能だ。