若者の意識は既に変わっている

冒頭で出生数の話をしましたが、日本は出生数が少なく、高齢者の割合が非常に高いので、社会保障制度を維持していくための労働人口が足りなくなっています。まずは納税者たる労働人口数を確保するために、これまでの健康な男性しか耐え難いような働き方スタンダードを変え、世界に冠たる長時間労働体質をやめて(先進国最低の時間当たり労働生産性)、男性も女性も労働市場にしっかり参加できるようにならないといけません。

そう言うと、「専業主婦家庭が減ると子どもが減る」「女性が働かないほうが子どもは増えるのでは?」という声が年配の方々から上がることがありますが、これも統計的には全くの事実誤認です。過去の記事でも指摘した通り、専業主婦世帯よりも共働き世帯の方が、1世帯当たりの子どもの数が多いのです。

若い人たちの意識はすでに変化していて、34歳までの未婚女性のうち、専業主婦になることを理想としている人は18%しかいません。実はパートナーは専業主婦が理想と考えている独身男性も1割程度なのです。そうであれば、こうした若い男女の価値観に合う社会を作る必要があります。夫婦共働きで、男性ばかりが経済力を背負うといった価値観はもはや若い男女には必要はない(むしろ受け入れられにくい)のです。

本当の課題を知り、意識を変える

人口、特に少子化や結婚に関しては、データを無視した思い込みや誤解がとても多いのが現実です。結局のところ、これらの問題の解決のために今の日本に必要なのは、誤解にもとづいた「なんとなく」の論調に流されず、データに現れている真の社会構造をしっかりと読み解いて、自分や周囲の本当のライフデザインの課題を男女ともに知ることです。例えば「高給取りのエリート職業について、妻を働かせずに養える、これが理想の男性像!」などという旧時代的なカッコイイ男女像に基づいて何かしらライフデザインして思い描いていることがあるなら、それを一刻も早く改めたほうが、男女ともにはるかに生きやすいかもしれません。

女性も求められてもいない古い枠に自分をあてはめて息苦しいなどと言っていないで(女性が自分で作るガラス天井問題)、思い込みのない「今」をしっかり見つめて生きていかなければなりません。自分であえてガラスの天井を作って「ワンオペで苦しい。会社の制度が、日本が、もっと女性に優しく変わらないといけないのよ」と天下国家論・企業論をかざすばかりではなく、まずは自分のすぐ目の前の夫と向き合い、「どうしてあなたはできないの? 私ばかりなの? あなたも会社にかけあえないの?」と話し合い、まずは自分の足元を変えていくことからも逃げてはいけません。

息子に対してだけでなく、夫に対してまでも、過保護な母親メンタルになって物事を考えてしまっていないでしょうか。

まだまだ女性の側にも、「やっぱりお母さんみたいに男性に稼いでもらった方が楽なのでは……」というメンタリティが残っているように思います。婚活でも、自らの年収がそれなりにあるのに、自分よりもさらに年収が高い、統計的にはほとんどいないような年収の男性を紹介してほしいと言ってみる女性はまだいらっしゃいます。

バブルも崩壊し、リーマンショックも経て、人口構造的には、マジョリティである高齢者をマイノリティである若手層が支えなくてはならない――「女性は結婚後、パート程度がちょうどいい」などといったことが許される時代ではないのです。少子高齢化により大きく変わる社会構造の中で、男女ともパパママ世代ゆずりのメンタリティを変える必要があります。

男性を先進国最高水準の長時間労働から解放しましょう。女性だからと逃げないで、経済的な役割を担う気概を持ちましょう。どっちが養ったっていい。育児は男女ともにできるのですから。

構成=太田美由紀

天野 馨南子(あまの・かなこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー

東京大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。1995年日本生命保険相互会社入社、1999年から同社シンクタンクに出向。1児の母。専門分野は人口動態に関する諸問題(特に少子化対策・少子化に関する社会の諸問題)。内閣府少子化関連有識者委員、地方自治体・法人会等の人口関連施策アドバイザーを務める。エビデンスに基づく人口問題(少子化対策・人口動態・女性活躍・ライフデザイン)講演実績多数。著書に『データで読み解く「生涯独身」社会』(宝島社新書)等。