「こうでなければいけない」を捨てていい

平常心を保てない人の特徴として「想定外のことを考えていない」ことがあります。

そもそも本番は、想定外のことが起こるもの。プレゼンならパソコンが急に動かなくなることもありますし、講演会なら聴衆から思いがけない声がとぶこともあります。

本番前はたくさん練習すると思いますが、そこからズレちゃいけない、練習どおりにしなきゃいけないと、あまりに強く思いすぎると、想定外のことが起こると頭が真っ白になって動けなくなります。でも練習から離れて違うことをしてもいいし、パソコンが使えなければパソコンなしでやればいい。「伝える」という目的が達成できれば、やり方は何でもいいわけです。想定外のことが起こっても、臨機応変に進めればいいと最初から思ってほしいですね。

最近こういった相談が多いことからも、社会人として「これができていないといけない」「これぐらいできなければダメだ」など、「ねば」「ならない」という考え方に縛られている人が増えているように感じます。

それも個人が感じるだけでなく、それを許さない環境も目につきます。もはや心の問題は自分だけでは解決できない状況なのです。

ですから、何か心配や不安に感じることがあったら、なるべく一人で抱え込まず、周りに応援を頼む、専門家に相談するなど、SOSを出してほしいですね。事前にSOSが出せれば、軽症ですむ場合が多いのです。

大舞台を前に不安が強いといった場合でも、SOSを出すのはありですよ。

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。