育児と介護を同時進行せざるを得ない、「ダブルケア」が今や社会問題となっています。ダブルケアの研究者は、このダブルケア問題は、近い将来大きな困難をもたらすと指摘します。

※本稿は、相馬直子,山下順子『ひとりでやらない 育児・介護のダブルケア』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

自宅でソファで昼寝をする
写真=iStock.com/maruco
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ダブルケアを困難にする社会構造

ダブルケアは、日本の社会構造の変化によって家族のあり方が変わり、同時に家族をとりまく環境も変わったことで表出してきました。それに加えて、人々を支えるための制度が想定する「家族」の姿と、実際の家族の姿にギャップがあることが、ダブルケアをより難しい問題にしています。そのギャップとはどのような点なのか、整理してみましょう。

まず、高齢化と晩婚・晩産化により、幼児の子育てをしながら親の介護をするという状況が特別なものではなくなりました。これは、1980年代までの日本では想定されにくかったことです。

次に、兄弟姉妹数が減り、親族ネットワークが縮小しています。おまけに個人主義が浸透し、隣近所の関係も希薄になりつつあります。核家族の増加も相まって、ちょっと子どもを見ていてもらったり、父母の世話を頼めるようなご近所さんや、親族との付き合いも少なくなりました。

労働環境の変化がもたらした「貧困」の連鎖

さらに、労働市場における非正規雇用が広がったことにより、家計を支える世代が、不安定な就業状況のなかで働きつづけなければならなくなりました。これは、ダブルケアラー自身が不安定な経済状態に置かれることを意味します。介護や子育てにはお金がかかりますから、なおのこと働かなければやっていけません。しかし、非正規の立場では勤務形態の融通がききにくく、子育てと介護の両立は非常に困難です。子育てや介護をしながら働くことが当たり前の社会でないために、ダブルケアによって仕事を減らしたり、辞めざるをえなかったりと、働く機会や時間を奪われている現実があります。これは、ダブルケア家庭の貧困にもつながっています。

育児離職、介護離職といわれるもので、ふたを開ければ「ダブルケア離職」とでもいうべき実態が、かなりあるのではないかと思われます。