面接で聞いてはいけないこと

例えば、35歳以上で転職するとなると、年収を気にする人も多いと思います。しかし雇う側からすれば、市況も厳しい今、まだ自社で成果を出していない人にいきなり高給は出せません。加えて、人件費は固定費なので、安易には上げたくないと考えて当然です。

転職者のほうに「前職と同等以上の額を目指している」「家族を養っているから最低限これぐらいは必要」などの事情があったとしても、雇う側からすれば関係のないこと。企業はその人が生み出す価値に給料を払うのであって、その人の希望や背負っているものに払うわけではないのです。

そう考えると、面接では自分は社にどう貢献できるかというPRに集中すべきであり、年収を尋ねるのはおすすめできません。どうしても気になる場合は、額ではなく評価制度を聞くといいでしょう。そうすれば、どんな成果を出せばどのぐらいもらえるようになるのか、大体の見通しが立つはずです。

これから転職する方には、入社初年度の額にはあまりこだわらず、向こう10年の累計額を見据えるようにしてほしいと思います。それが前職を上回っていれば、転職は成功したと言えるのではないでしょうか。

転職は「辞める前に動く」が鉄則

さて、転職をするならすぐ動くべきなのか、それとも景気の回復やコロナ禍の収束まで待つべきなのか。これはその人の状況によって異なります。すぐ動くべきなのは、業績悪化などによって今の会社を出ざるを得ない人。

現在の状況では、転職先が決まるまでには相応の時間がかかるでしょうから、できる限り早く動くことをおすすめします。ただ、前述の通り求人数は減っているので、選択肢はそう多くないという覚悟はしたほうがよさそうです。

逆に待つべきなのは、今の会社の業績が順調で、職場でも必要とされている人。やりがいがない、収入や働き方に不満があるといった場合でも、慌てて動かず、転職市場の状況や自分の需要などをじっくり見定めてほしいと思います。

いずれの場合も、転職は「辞める前に動く」のが鉄則。転職活動に集中したいからと、行き先が決まる前に辞めてしまう人もいますが、離職すると収入が止まるため、どうしても焦りが生まれてしまうもの。会社が急に倒産したなどの事情がない限り、在職中から動き、次が決まってから退職するようにしてください。

ここまでの話はいずれも性別問わず共通ですが、もし志望先がいまだに男性優位の企業だった場合、女性にはより厳しい基準を設けている可能性があります。こうしたことは企業側が表立って言うことはないので、受けてみないとわからないのが現状。でも、そうした社風では入社後も活躍の範囲が狭くなりがちなので、ダメならさっと切り替えて次に当たったほうが得策です。

女性は特に、腰を据えて臨んで

私はリクルートで長く転職市場に携わり、その後は35歳以上を対象にした転職支援サービスに取り組んできました。この経験から、女性転職者は男性に比べて行動が速く、起業や独立など思い切った選択をする人も多いと感じています。

これらは、転職せざるを得ない時には大きな強みになりますが、反面、自分の需要を考える前に動いてしまう、次が決まる前に離職してしまうといったリスクも大きくなります。転職は「自分や社会の状況」と「この先どう働きたいか」の2点を考え合わせて決めるべきもの。そして転職すると決めたなら、ぜひ「雇う側の目線」を持って活動に臨んでほしいと思います。

構成=辻村 洋子

黒田 真行(くろだ・まさゆき)
転職コンサルタント、ルーセントドアーズ代表取締役

1988年、リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。2014年ルーセントドアーズを設立、成長企業のための「社長の右腕」次世代リーダー採用支援サービスを開始。35歳からの転職支援サービス「Career Release 40」、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」を運営している。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』『35歳からの後悔しない転職ノート』『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』など。