歴史的な危機は次の新しい時代への布石
しかし、世界史を俯瞰してみると、こういった危機の先には、必ず次の新しい時代が待っています。
古代において、感染症は社会を大きな不安に突き落とすものでした。パニックになった人々はそれまでの信仰を捨て、新たな宗教へと救いを求めるようになります。それがキリスト教、仏教などを普及させることになり、世界的宗教に成長させました。
日本の神道にも感染症は深く関わっています。疫病が日本史に初めて登場するのは、『古事記』の「崇神朝の疫病」です。この疫病を収めるために日本最古の神社・大神神社がつくられ、さらに宮殿内に祀っていた天照大神を三重県の伊勢神宮へと移すことで、伊勢神宮を頂点とする神道が確立しました。
歴史が古代から中世に移り変わっても、感染症は新しい文化や社会制度を生み出していきます。
中世ヨーロッパで大流行し黒死病と恐れられたペストはルネサンスを生み、時代は近代へと大きくシフトします。中世の価値観の中心であったカトリック教会も宗教改革の嵐にさらされました。大航海時代のスペインが新大陸にもたらした天然痘は、免疫力のない現地人に多くの死者を出し、アステカ帝国・インカ帝国が滅亡。世界の覇権を巡り、各国の植民地政策がぶつかっていきます。
感染症は社会インフラを発展させる役目も果たしています。産業革命時のイギリスでは、コレラの大流行をきっかけに「保健衛生」の概念が定着。労働の担い手となる一般市民の健康を守るために、下水道のインフラが整備されました。
このように、時代の大きなうねりの中で人類は感染症のパニックと闘いながら、新たな時代の扉を次々と開いてきたのです。
それは経済バブル崩壊においても同様です。17世紀に起きた世界初のバブル経済「チューリップ・バブル」の崩壊は、その後の産業革命へと時代を後押しすることになります。バブル経済の崩壊は、それ以降も何度も繰り返され、経済のグローバル化とともにその影響を世界規模で拡大していきます。
そういう中で、次の時代の主役になる条件は、時代の流れを読み、逆境に負けずにチャレンジし続けられるかどうかです。象徴的なのは、1990年代の「ITバブル」期に創業し、バブル崩壊を経て、現在は巨大IT企業として世界経済をけん引するようになったAmazonとGoogleでしょう。彼らは、まさに「時代の危機を生き抜いた勝者」といえます。