書き続けるための、毎日のルーティン
——まだまだ書き続けるために、普段から心がけていることは?
【角野】瞬発力で書く人もいるけど、私はコツコツ派。だから1日のルーティンが決まっています。仕事をする時間も、食事の時間も決めていて、毎日11時から午後3時か4時までが仕事の時間。前は仕事を終えてから買い物に行ったり、コーヒーを飲みに行ったりしたけれど、コロナでできなくなったでしょ。だけど、もう85歳だから歩かないと動けなくなると思って、なるべく人のいない静かなところを選んで散歩しています。同じ道を歩いていると、「新しい家が建った」とか「ハーブのお庭をつくってる」とか気がついてだんだん面白くなってくるのよ。
「面白がる」ということをしたほうがいい。みのむしがたった1つ、うちの壁にぶら下がっていたことがあったの。壁だから、身を隠す葉もなければ、オスとメスとの出会いもないだろうなと思いながら大事に見守っていたら、だんだんとうちの壁の色になってきたのよ。いつ手を出して壁のかけらを自分の蓑にくっつけているか知らないけれど、イノベーションをやってるわけ。擬態する生き物はいっぱいいるけど、あの知恵ってすごいと思わない? 彼だか彼女だか知らないけど、最大限の工夫をしてるのよ。退化したけど、人間にもそういう力はある。今こそそれを見つけるというのはどうですか?
「何かを作る」というのは、喜びだと思うの。お話を作る、絵を描く。自分の気持ちを形にしてみるという行為は、自分も人も幸せにすると思う。
本当のキャリアアップとは
——読者にはキャリアアップに積極的で、長く働き続けたいという女性が多いです。先輩としてメッセージをお願いします。
【角野】私は、キャリアアップを目指せと押し付けないことが大事だと思う。それは子供を育てるときもそうですよね。
日常的にわくわく、生き生きしている人って魅力的よね。私も編集者さんとか、会社で偉くなった女性を大勢見ていますけど、「こうしたらいいのよ」と押し付けてくるのではなく、お話が面白くて「おっ」と思わせてくれる人は魅力的で、まわりを引き付ける。そういう人に「この本、笑っちゃいました」なんて読んだ本を紹介されると、すぐ買いたくなっちゃう。
本当のキャリアアップというのは、その人自身が生き生きとして、自分で考えて工夫をして、何かを生み出していくということ。それに尽きるのではないかしら。
『ヒトラーに盗られたうさぎ』
シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開中
公式HP
1933年、ドイツ・ベルリンで暮らす9歳のアンナは、突然一家でスイスに行くと告げられる。ユダヤ人で演劇批評家の父親が新聞やラジオでヒトラーを批判していたため、弾圧を受けると予想しての逃避行だった。大事にしていたピンクのうさぎのぬいぐるみや、優しいお手伝いさんら、大好きなものに別れを告げて家を離れたアンナは、長い亡命生活の中でたくましく成長していく。2019年5月に95歳で亡くなった絵本作家ジュディス・カーの実体験がもとになっている。
構成=新田理恵
東京・深川生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て24歳からブラジルに2年滞在。その体験をもとに描いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で、1970年作家デビュー。代表作『魔女の宅急便』は舞台化、アニメーション・実写映画化された。産経児童出版文化賞、野間児童文芸賞、小学館文学賞等受賞多数。その他、「アッチ、コッチ、ソッチのちいさなおばけ」シリーズ、「リンゴちゃん」「ズボン船長さんの話」。紫綬褒章、旭日小綬章を受章。2016年『トンネルの森 1945』で産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、18年3月に児童文学の「小さなノーベル賞」といわれる国際アンデルセン賞作家賞を、日本人としては3人目に受賞。