向上心をなくしたシニア部下に「新たな挑戦」を促すコツ

シニア部下の中には生涯現役でいこうと張り切っている頼りになる人がいる一方で、給料や待遇が下がったことでモチベーションを落としてしまっている人もいます。評価が高くても昇格や昇給はほとんどないため、「今の給料で無難に仕事ができればいい」と思っています。

女性会社員
写真=iStock.com/JohnnyGreig
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後者の部下に対して、いくら理想を語ってモチベーションを高めようとしてもなかなか難しいものです。だからといって、向上心なく仕事をしている状態ではリーダーとしても困りますし、周囲にも悪影響を与えます。

「新しいことをやっていかないと今後は厳しいですよ」などと正論で動かそうとするリーダーもいますが、彼らにはあまり響かないでしょう。

しかし、この人たちも現状維持でいいとはいいながらも評価が下がるのは恐れています。やったことのある得意な仕事ばかりして、苦手な仕事や未経験の新しい仕事に挑戦することを避けている部下には、どのような伝え方をすればいいのでしょうか。

大手サービス会社の販売促進部に勤める30代後半のリーダーAさんが、講演後に「Cさんというチームにあまりいい影響を及ぼしていない年上の部下とのコミュニケーションをどうしたらいいかと、相談に来ました。

Cさんは、シニア採用で再雇用されている60代の正社員です。この方は元々大手広告会社に在籍していて、その後今の会社に転職してきました。営業をやっていましたが、定年を機に販売促進部に異動しました。

Cさんはルーティンワークの仕事しかしません。そこで、新たにイベントを企画する仕事で30代前半の部下Dさんと組ませることにしました。

しかしCさんは、「ライバルの会社も同じことをやっているし、難しいよ」「俺も若い頃同じこと考えたんだけど、ウチの会社は無理だよ」などと言います。

挑戦しようとしているDさんと、進行を遅らせようとするCさんが対立し始めました。Dさんは、年長者であるCさんに対してなかなか意見を言えません。

このケースですが、Cさんは、この仕事が絶対無理だからやめようと言っているわけではありません。失敗して恥をかくのが怖いので、やりたくないのです。このタイプの部下に、(×)「挑戦した結果の失敗で評価が下がることはないですよ」と安心材料を与える言い方は効果がありません。このままでいいだろうと思ってしまうからです。「やらないことによる痛み」を伝えなければなりません。(○)「挑戦しないと評価が下がりますよ」と伝えるのです。

吉田幸弘『どう伝えればわかってもらえるのか? 部下に届く 言葉がけの正解』(ダイヤモンド社)
吉田幸弘『どう伝えればわかってもらえるのか? 部下に届く 言葉がけの正解』(ダイヤモンド社)

人は何かに挑戦するとき、それによって快楽を得られるか、それによって痛みを避けられるかに着目します。後者の「痛みを避けられるよ」と、伝えたのです。AさんはCさんに「やって失敗したことによってマイナス評価が生まれないこと」と、「やらないことによってマイナス評価が生まれること」を伝えました。

Cさんはマイナス評価になるのを恐れて動きだしました。Dさんと協力し合いながら仕事を進行させ、イベントの開催までこぎつけました。しかし、集客人数の目標を300名にしたものの、130名しか集まらず、損益分岐点を下回って大赤字になってしまいました。Cさんは、Aさんに「やって失敗したことで評価を下げない」と言われていたものの、Cさんは評価が下がることを覚悟していました。しかし、Aさんは「挑戦したことはプラスの評価に値します。次回は成功させましょう」と伝えました。それから3度失敗した後、4回目のイベントで目標数字以上の集客をし、成功させることができました。そこで自信になったのか、Dさんに「他のイベントもやってみようよ」などと自分から提案するようになったのです。

できることなら、リーダーは「新たな仕事をやるメリット」を伝えましょう。しかし、それでもなかなか行動しない部下には、「やらないことによる痛み」という恐怖感をちらつかせることも、時には部下のために必要なことなのです。

吉田 幸弘(よしだ・ゆきひろ)
人材育成コンサルタント・コミュニケーションデザイナー

1970年生まれ。大学卒業後、大手旅行会社、有名学校法人を経て外資系企業へ転職。そこで周囲のメンバーとうまくコミュニケーションが取れず、降格人事を経験する。その後、異動先で出会った上司より「伝え方」の大切さを教わり、「ポイントを絞ってわかりやすく伝える方法」を駆使して、劇的に営業成績を改善。社外でも営業コンサルタント・人材育成コンサルタント・コーチとして活動し、2011年1月より独立。現在はさまざまな業種のビジネスパーソン向けに、人材育成、チームビルディング、生産性向上、コミュニケーション術の方法を中心としたコンサルティング活動及び1on1コーチング、講演、研修等を実施している。累計の受講者数は3万人を超えている。