※本稿は著者・吉田幸弘『どう伝えればわかってもらえるのか? 部下に届く 言葉がけの正解』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
年上部下が耳の痛いことを言ってきたときの返し言葉
年功序列制度を採用している会社が減ってきており、雇用の流動化が進んだ今では、年上の部下を持つ年下のリーダーが増えてきました。エン・ジャパン株式会社の調べによると、30代から50代のミドル世代の転職した人の66%が年下の上司の下で働いたことがあるそうです。
私のところには、年上部下に対して、どのように対応したらいいかという相談が多くきます。年上部下との関係に悩むリーダーは多いのです。
年上部下がうまく動いてくれると、リーダーの仕事時間の短縮につながります。なぜなら、経験に基づいて仕事の時間を短縮する方法をアドバイスしてくれたり、リーダーと部下の間に入って、部下を指導してくれたりすることもあるからです。
リーダーが100%正しいわけではありません。それに対して、助言をしてくれる年上の部下はありがたいものです。この年上部下のおかげで、仕事も効率化できるわけです。
私は「時短」という観点からも、年上の部下には意見を出してもらうべきだと伝えています。
よって辛口の意見が出てきた場合は、否定的な解釈をするのではなく、「意見を出してくれている」と肯定的な解釈をするようにすべきです。
年上部下が耳の痛いことを言ってきたら、(×)「それはわかりますけど、まずは自分の仕事をきちんとやってください」と言い返すのではなく、(○)「アドバイス、ありがとうございます」と言って、発言に感謝の意を示します。その意見を受け入れるかどうかは別問題でかまいません。「Cさんにはどんどん意見を言っていただきたいんです。私はCさんのような経験豊富な方の力を必要としています」と伝えれば、年上の部下はリーダーのために動いてくれるようになります。
「居場所がなくなる」不安を抱えているだけ
年上部下は頼られたがっているのです。年上部下はあまり褒められることがありません。どちらかというと腫れ物のような扱いを受けがちです。これは本人も気づいています。居場所もありません。認められたがっています。他の部下との「橋渡し役」をお願いするのもいいでしょう。「忌憚のない意見をどんどん言ってください」と、単刀直入に伝えましょう。
業務によっては、メンバーはリーダーに言われるより、同じプレイヤーである先輩に言われたほうが納得感を得られるという声もあります。
年上部下は、頼られると、たいてい「よしわかった」と力になってくれます。
年上部下からすると、仕事を頼んでくるときだけ調子がいいなとは思いません。「頼られていること」を嬉しく感じるのです。
年上部下は自分の上に年下上司が来ることで、自分の存在が邪魔だとないがしろにされるのではないかという不安を感じています。居場所がなくなるかもしれないと脅威をいだいています。
そんなドキドキを隠しながら、軽く見られないようにと虚勢を張っているだけです。
反発してくる年上部下は、虚勢を張っているだけで自分の居場所を確保したいだけです。本当は何か貢献したいと思っているのに、やや年下上司には素直になれなく不器用なだけです。ですから、リーダーのほうから歩み寄り、立場を慮りながら対応していくのです。
向上心をなくしたシニア部下に「新たな挑戦」を促すコツ
シニア部下の中には生涯現役でいこうと張り切っている頼りになる人がいる一方で、給料や待遇が下がったことでモチベーションを落としてしまっている人もいます。評価が高くても昇格や昇給はほとんどないため、「今の給料で無難に仕事ができればいい」と思っています。
後者の部下に対して、いくら理想を語ってモチベーションを高めようとしてもなかなか難しいものです。だからといって、向上心なく仕事をしている状態ではリーダーとしても困りますし、周囲にも悪影響を与えます。
「新しいことをやっていかないと今後は厳しいですよ」などと正論で動かそうとするリーダーもいますが、彼らにはあまり響かないでしょう。
しかし、この人たちも現状維持でいいとはいいながらも評価が下がるのは恐れています。やったことのある得意な仕事ばかりして、苦手な仕事や未経験の新しい仕事に挑戦することを避けている部下には、どのような伝え方をすればいいのでしょうか。
大手サービス会社の販売促進部に勤める30代後半のリーダーAさんが、講演後に「Cさんというチームにあまりいい影響を及ぼしていない年上の部下とのコミュニケーションをどうしたらいいかと、相談に来ました。
Cさんは、シニア採用で再雇用されている60代の正社員です。この方は元々大手広告会社に在籍していて、その後今の会社に転職してきました。営業をやっていましたが、定年を機に販売促進部に異動しました。
Cさんはルーティンワークの仕事しかしません。そこで、新たにイベントを企画する仕事で30代前半の部下Dさんと組ませることにしました。
しかしCさんは、「ライバルの会社も同じことをやっているし、難しいよ」「俺も若い頃同じこと考えたんだけど、ウチの会社は無理だよ」などと言います。
挑戦しようとしているDさんと、進行を遅らせようとするCさんが対立し始めました。Dさんは、年長者であるCさんに対してなかなか意見を言えません。
このケースですが、Cさんは、この仕事が絶対無理だからやめようと言っているわけではありません。失敗して恥をかくのが怖いので、やりたくないのです。このタイプの部下に、(×)「挑戦した結果の失敗で評価が下がることはないですよ」と安心材料を与える言い方は効果がありません。このままでいいだろうと思ってしまうからです。「やらないことによる痛み」を伝えなければなりません。(○)「挑戦しないと評価が下がりますよ」と伝えるのです。
人は何かに挑戦するとき、それによって快楽を得られるか、それによって痛みを避けられるかに着目します。後者の「痛みを避けられるよ」と、伝えたのです。AさんはCさんに「やって失敗したことによってマイナス評価が生まれないこと」と、「やらないことによってマイナス評価が生まれること」を伝えました。
Cさんはマイナス評価になるのを恐れて動きだしました。Dさんと協力し合いながら仕事を進行させ、イベントの開催までこぎつけました。しかし、集客人数の目標を300名にしたものの、130名しか集まらず、損益分岐点を下回って大赤字になってしまいました。Cさんは、Aさんに「やって失敗したことで評価を下げない」と言われていたものの、Cさんは評価が下がることを覚悟していました。しかし、Aさんは「挑戦したことはプラスの評価に値します。次回は成功させましょう」と伝えました。それから3度失敗した後、4回目のイベントで目標数字以上の集客をし、成功させることができました。そこで自信になったのか、Dさんに「他のイベントもやってみようよ」などと自分から提案するようになったのです。
できることなら、リーダーは「新たな仕事をやるメリット」を伝えましょう。しかし、それでもなかなか行動しない部下には、「やらないことによる痛み」という恐怖感をちらつかせることも、時には部下のために必要なことなのです。