知られざる、アメリカのヒラリー人気

ネガティブな報道ばかりが伝えられているせいで特に日本で誤解されているところがあるが、ヒラリーは決して「人気がない政治家」ではない。情熱的な支持者が多い大スターだ。ヒラリーが書いた本は、必ずといって良いほど記録を塗り替えるベストセラーになり、本のサイン会には情熱的なファンが何時間も長蛇の列を作る。特に黒人女性の間でのヒラリーの人気は高く、彼女の政治集会で、「ゴー、マイガール!」と大声で声援を送っていた黒人女性たちをみかけた。

2016年の大統領選でスピーチするヒラリー・クリントン
写真=渡辺由佳里撮影
2016年の大統領選でスピーチするヒラリー・クリントン

大統領選に敗北した後でも人気は続いており、ヒラリーがハイキングしているところに遭遇した子連れの若い母親が一緒に記念撮影をしたことがニュースになったことがある。その時にヒラリーが着ていたパタゴニアのフリースジャケットまでもが話題になり、誰かが過去のヒラリーの写真を検証したところ、彼女が少なくとも21年同じジャケットを着続けていることが判明した。それに続いてパタゴニアのジャケットを欲しがる人が増えた。パタゴニアは収益の一部を環境保護団体に寄付することで知られる「地球に優しい企業」だが、このヒラリーのニュースのおかげで、約10億円の資金を集めることができたという。

ハリスだけが持つ、他の女性候補にない魅力

27人の候補が乱立した2020年の民主党の予備選では、女性候補が6人いた(カマラ・ハリス、エリザベス・ウォーレン、エイミー・クロブチャー、カーステン・ギリブランド、トゥルシ・ガバード、マリアンヌ・ウィリアムソン)。私はクロブチャーを除く上記5人の女性候補の政治集会に行って言葉も交わしたが、ヒラリーほど情熱的なファンが多い候補はいなかった。

2019年5月の集会で、筆者夫妻と写真に納まるカマラ・ハリス(写真=筆者提供)
2019年5月の集会で、筆者夫妻と写真に納まるカマラ・ハリス(写真=筆者提供)

とはいえ、将来ヒラリーに匹敵するようなカリスマ性を発揮する可能性を示した候補はいた。それはハリスだ。ニューハンプシャー州での少数限定の政治集会のステージにハリスが現れたとき、多くの人が口々に「大統領の風格がある」とささやいた。ここまではヒラリーに似ているが、他の女性候補にないハリスの魅力は、女性のみならず男性にも「一緒にビールを飲んで語り合いたい」と思わせる「親しみやすさ」だった。深刻なテーマについての質問には素早く鋭利な回答をするが、家族や趣味の話などになるとまるで長年の友人のように笑顔でおしゃべりをする。この「人懐っこさ」は、ヒラリーに欠けていたものだ。

だが、それ以上に、2人は大きな違いがある。それは、ヒラリーが「ビル・クリントン」という大きな荷物を抱えていたことだ。