幼い頃から生活力を育てる必要性がある

まず「競争に勝つ」は、他者との比較で勝ち負けを決める考え方です。今後はこうした相対評価はやめて、その子なりの成長に注目する「絶対評価」を心がけてほしいと思います。

例えばひらがなを書くのでも、まだできないうちから「○○ちゃんはもう書けるのに」と言うのではなく、その子が書けるようになったら初めてその成長をほめるのです。

絶対評価や個別対応は組織マネジメントにおいても重要で、管理職が部下を育てる際に求められる資質でもあります。その意味で、相対評価しか知らずに育った人は「できない上司」になってしまう可能性が高いと思います。

また「男らしくあれ」はやめて、男の子にも家事の手伝いをさせるなど、性別分業を意識させないように育てたいものです。今後、フルタイム共働き家庭がますます増えていけば、家事育児は女性の役割だと思い込んでいるような男性は通用しなくなります。

加えて、今後は生涯未婚のままでいる人も増えていくと予想されています。その時に家事力がゼロだったら、困るのは本人です。現状では、娘には家事の手伝いを頼むけれど、息子には頼まないという家庭も少なくないようです。実際、授業でも女子学生から「兄や弟はお手伝いをせず自分だけがしていて、それを当たり前だと思っていた」という体験談をよく聞きます。

今後は、男女ともに幼い頃から家事を含めた生活力を育て、同時に「男は大黒柱として女性を養うべき」という古い思い込みも正していかなければなりません。旧来の男らしさや女らしさにとらわれず、誰もが自分の望む生き方を選択できる──こうした社会が実現すれば、生きづらさを感じる人も減っていくように思います。

すでに大人になった人を変えるのは手遅れ

そして、粗暴さなどの欠点も、気づいた時に指摘していきたいもの。男の子はふざけて相手を叩いたり、女の子のスカートをめくったりといった行動をしがちです。これも「元気がいい」で済まさず、いけないことはいけないと言い聞かせるべきです。たとえおふざけでも、相手が痛がる行動や性暴力につながる行動はNGだという意識は、育ってからでは変えにくいのです。

しつけにかかわらず、すでに大人になってしまった人の意識を変えるのは難しいものです。ですから、今、子育て中の人には、ぜひ性別にとらわれない教育を心がけていただきたいと思います。過剰な競争意識は挫折感のもとになりやすく、また性別分業意識はジェンダー不平等への鈍感さを生み出してしまいます。

そのまま大人になった時、つらさを感じるのは本人です。社会はどんどん多様化しており、この流れが逆行することはおそらくないでしょう。将来、多様化した社会で通用する人間になってもらうためにも、その子の性別にとらわれず、個性を尊重する育て方を心がけていただきたいと思います。

構成=辻村 洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。