孤立感が強まった時が一番しんどい

自殺願望のある人が周りにいても、それに気づけないことはよくあります。ある意味、精神科医でも防ぐことは難しいので、実際にそれで周りの人が亡くなっても、決して自分を責めないでほしいと思います。

危ないのは、不安定だった人が急によくなったとき。「よくなりました。先生、ありがとうございます」と言われて、こちらもポジティブに考えていたら大間違いで、そのときはもう腹をくくって身辺整理をしているといったことが多いのです。ですから不安定な人が急に元気になったり、もう元気だから大丈夫、と距離をとるようになったりすると非常に危険な状態と言えます。

こうしたことは誰しも可能性のある話です。私たちが精神的な負担が大きくなるのは、孤立感が強まったときです。それを防ぐには、とにかく“つながり”を意識してほしいと思います。

社会的なつながりには、2種類あります。ひとつは学校や会社など、どこかに所属しているという感覚。これを「社会的統合」といいます。もうひとつが「社会的ネットワーク」といわれるもの。これはAさんと仲がいい、Bさんとも仲がいい、といった個人間のつながりです。

仕事面で言うと、在宅勤務が続くと会社に所属する「社会的統合」の感覚が薄くなり、孤立感が強くなります。ですから会社としても、一人ひとりがどこかに所属しているという感覚が持てるように配慮しなければいけません。チームリーダーなら、朝礼や声かけなど、何かしら顔を合わせる機会を増やして、みんながここに所属しているという感覚を持てる工夫が必要になります。

プライベート面では、コロナ禍でママ友との交流が減ってしまうことはとても大きな変化です。というのは、ママ友は同じ保育園や学校という「社会的統合」と個人的に仲良しのAさんやBさんといった「社会的ネットワーク」のどちらも含んでいるからです。ですから交流が切れると、この二つとも切れることになってしまいます。そんなときは医療や福祉の関係者、役所などに相談してほしいですね。一人で抱え込んではダメです。それこそオンラインを使いながら連絡をとって、個人間のつながりを太くしていくとよいでしょう。

「仕方ない」とあきらめることが一番の方法

そして予防接種や検診など思い通りにいかないことがあっても、思い切ってあきらめる。「今までできていたからやらなきゃ」というマストなことも、今はできないことがたくさんあります。できないならできなくてしょうがないと割り切って、自分のできる範囲でやればいいのです。

なぜ、なかなかあきらめられないのか。それは世間の目があるからでしょうね。「予防接種してないの?」とか「子どもがかわいそうでしょ」と言う人もいるから、その恐怖心であきらめるのが難しくなっているのかもしれません。でも今は、できるだろう、やらなきゃという考えにとらわれず、今年は延びても仕方ないという鷹揚な気持ちでいること。それが自分の身を守る、一番の方法なのです。

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務