男性用T字カミソリはなぜブルーばかりなのか

それでは「肌にやさしい」ことをアピールするには、パッケージや商品にどんな色を使えばいいでしょうか。それは肌への「うるおい」や「水」を連想させる「ブルー」でしょう。シックの商品はブルーを使っているためか、非常によく売れています。

いっぽうジレットがデザインに採用したのは、ブルーとは正反対のオレンジ色。もちろんジレットも日本では「肌にやさしい」のが重要であることは理解しています。だからこそちゃんとパッケージに「ヒリヒリしない」「すべすべ肌へ」と書いてある。にもかかわらずオレンジ色を使ったので、私は驚いてしまいました。

人間は文字を読む前に、目に入ってきた色の印象に無意識に左右されます。特に店頭では、手に取るかどうかを判断するのはほんの一瞬です。印刷された文字を読むのは手にとったあとなので、まずはパッと見たときに「カミソリ負けしないんだな」「安心して使えるな」という第一印象を与えなければならないのです。

ということは、いくら「ヒリヒリしない」と書いたところで、大半の人はオレンジ色を見た瞬間、カミソリ負けして赤く腫れあがった肌を想起して、「うわ、ヒリヒリしそう」という印象を抱いてしまう。

ジレットはマーケティングを重視する企業として知られるP&Gの傘下なのに、これは致命的ともいえるブランディングミスではないでしょうか。

売り場が青一色なので、あえて違う色を使うことで目立とうとしたのかもしれませんが、それなら何もオレンジ色を選ばなくても、男性の好む黒やシルバーを使うなど、方法はいくらでも考えられます。

私は「いずれオレンジ色はやめるに違いない」と思いながら注視していたのですが、どうやらその気配はなさそうです。ジレットの商品はグローバルブランドなので、日本だけ色を変えるのは難しいのかもしれませんが、このままでは非常に不利なのは間違いありません。ジレットがオレンジ色を改めない限り、当分シックの安泰が続くでしょう。

「隣に並んでいるもの」次第で印象がこんなに変わる

ところで、さきほども述べたように、いまシックの商品は単なる髭剃りであることをやめて、スキンケア商品になることを目指しています。このようなときは、商品を店内のどこに置くかが非常に重要になってきます。なぜなら私たちは、「何の売り場にあるか」でその商品カテゴリーを無意識に判断しているし、「横に何が並んでいるか」でも印象が左右されるからです。

有名な例でいうと、同じレトルト食品であっても、生鮮・冷蔵コーナーの横に並んでいると、「鮮度がいい」「これはきっとつくりたてをパックしたに違いない」という印象を持ちます。ところが同じものでも缶詰の横にある場合は、「これは買い置き用の保存食で、新鮮さとはまったく関係のない商品だ」と受け止められるのです。

ということはT字カミソリであっても、スキンケア商品の隣に並んでいるだけで、なんとなく「これも肌によさそう」「肌のことを考えてつくられた商品なんだろうな」という印象を与えられるというわけです。シックでは、自社のT字カミソリを日用雑貨ではなく男性化粧品売り場の隣に置いてもらうようにしていますが、これは「この商品は単なる髭剃りではなく、スキンケア商品という位置づけです」というメーカーの主張でもあるのです。