能面から涙がこぼれた
最終回の白井の追い込みは、凄かった。絶対的服従を強いられてきた箕部の不正を知り、反旗を翻す。
半沢の妻、花から「花言葉は誠実、凛としていつもまっすぐな白井大臣みたい」と手渡された桔梗の花がきっかけとなるスイートな運びにはまあ片目を瞑るが、白井の能面から涙がこぼれたことで彼女に表情と感情が戻っていく演出は、抑圧からの解放を意味していた。その桔梗を箕部が土足で踏み潰すのを見た時の、白井の苛烈な怒りで歪む表情も素晴らしかった。
彼女はその手で、箕部幹事長が何かの象徴であるかのように固執し丹精していた大きな盆栽を「くたばれ!」と叩き落し、どっかりと真っ二つに割ってみせる。そして全国民が注視するなか、東京中央銀行の債権放棄が期待された会見場で別人のように手のひらを返し、カメラの前で半沢に不正を暴かれた箕部へ「幹事長! やりなさい」「国民のために」と土下座を求めるのだ。
スカートの下に劇場があるように、マスク(能面)の下にも、きっと劇場がある。私たちも、顔を隠す暮らしに慣れすぎたいま表情を失っていないか、ちょっとマスクを持ち上げて鏡を見てみてもいいのかもしれない。
写真=iStock.com
1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』ほか。