実現性を高めるには、直接言わないこと!

それでもまた、権利を主張するときに余計な反発があるのでは、という懸念がある人も多いと思います。そういう方にとって、「直接、相手に言わない」ということは大事なポイントです。その決定権を持っている人のところに行かず、まずは根回しをする。これは企業勤めの人が得意とするところでしょう。いきなり偉い人やみんなの前で「こんなこと許せません」と言い出すのは確かに誰しも怖いです。そうでなく、周囲に「どう思う?」と相談するところから始めると、ハードルも下がるのではないかと思います。特に女性が少ない職場で声を上げるのに抵抗がある人が現実的に試せるのは、そういうルートでしょう。

富永京子さん
撮影=プレジデント ウーマン編集部

労働環境を改善しようとする動きに、職場でヒールのある靴を強要されたくないと主張する「#KuToo」運動があります。“わがまま”を言うからには、反発や対決は回避し得ないのですが、職場で唐突に「パンプスを廃止しろ」と言うと管理職との妥協点が見つからない可能性も十分にある。

一方で、職場や会社を越えて周囲にじわじわ広げていくと、「こういう解決策もあるよ」など、良い案を出してくれる人がいるかもしれません。例えば、「デスクにいるときはスリッパを履いていればいいんじゃないか」とか。それって根本的な解決にはならないと感じるかもしれない。ただ、それを見た人が「スリッパに履き替えるということは、ヒールのパンプスってそんなにつらいんだな」と理解してくれ、理解がじわじわ広がっていくこともあるのです。

「快適に働きたい」は自己中なのか

それは結果的に女性が働きやすくなるだけでなく、「女性も男性も服装に縛られない生き方をすべきだ」という運動になるわけです。リモートワークにしても、男性も家にいて子供と過ごす時間が増えたほうがいいという人もいるわけで、今は中高年の管理職世代の男性が親の介護をしている場合も多いので、その人たちにとっても、会社に行くか自宅で仕事するか選べたほうが良いはずですよね。職場で上の立場にいる人や男性たちは、なかなか弱みを出しづらく、それこそ“わがまま”を言い出しづらいでしょうから、強い人、言い出せない人に代わって私たちが言ってあげる、というくらいの気持ちでいても、もしかしたら良いのかもしれません。

そもそも「快適に働きたい」という主張は自己中なのでしょうか? たしかに、会社という組織では「快適さを得たいならさぼらず真面目に働け」と求められがちですが、リモートワークの快適さを得ながら真面目に働くことは両立可能なわけで、そういった倫理を組織の中で形成することが重要です。まさに労働組合などの社会運動はそのためにあるわけですよね。労働環境を良くすることが忠誠心をもちながら働くことにもつながる。リモートワークを選択できるようになれば結果的に会社にとってもいいということを理解してもらう必要があり、理解してもらえないなら外部からデータや事例をもってきて示すのもアリでしょう。そのプロセスはちょっと大変ですが、ふだんビジネスを展開している皆さんなら、きっと実現可能だと思います。

構成=小田慶子

富永 京子(とみなが・きょうこ)
立命館大学産業社会学部准教授、シノドス国際社会動向研究所理事

1986年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修士課程・博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2015年より現職。専攻は社会運動論・国際社会学。
著書に『みんなの「わがまま」入門』『社会運動と若者』『社会運動のサブカルチャー化』がある。