職場でのルールから政治まで、決められたことに「本当にこれでいいの?」「これはちょっと嫌だな」と違和感を抱くことは、誰にでもあります。それを変えたいと思って発言するのには勇気がいりますが、現実的にどうすればいいのでしょうか。社会運動を研究する社会学者であり、『みんなの「わがまま」入門』(左右社)の著書がある富永京子さんに、賢い声の上げ方を聞きました。

権利を主張すると、「わがまま」と思われる理由

昨年(2019年)、上梓した『みんなの「わがまま」入門』では、多様化と個人化ということについて書きました。つまり社会はどんどん多様化しているので、私たちは自分の苦しみが他人にも共通しているかが見えにくくなり、誰が「かわいそう」な人かもわかりにくい。声を上げた人を「わがまま」だと感じてしまったり、「ずるい」と思ってしまったりする理由は、そこにあります。

立命館大学 産業社会学部 准教授 富永京子さん 撮影=プレジデント ウーマン編集部
立命館大学 産業社会学部 准教授 富永京子さん 撮影=プレジデント ウーマン編集部

この本で言う“わがまま”とは、権利を主張することです。権利を主張すると「自己中(自己中心的)」「自分勝手」と言われてしまいがちですが、一方でそんな“わがまま”は、社会を変え、人々が生きやすくする可能性もあるという意味で使っています。

最近では、テニスプレーヤーの大坂なおみ選手が、アメリカで起こっている人種差別問題のムーブメント「BLM(ブラックライブズマター)」に賛同。試合をボイコットしたり、全米オープンでの犠牲者たちの名前を記したマスクをしたりしたことが話題になりました。

それについてのスポンサー企業のコメントも印象的でしたが、「アスリートや芸能人が表立って政治について話してはいけない」という空気は、やはり海外より日本のほうが根強い。特にSNS上ではそういうバッシングが起きがちですよね。SNSでは、マスメディアでは拾いづらい声やメッセージが広がる一方、匿名であるがゆえにバッシングが激しくなることもある。そこが難しいところだと感じています。