早速発酵食巡りへ

温泉でリフレッシュしたら、早速発酵食巡りへ。真庭市で発酵を生業なりわいにしている7つの企業が、「まにわ発酵’s(以下、発酵’s)」と称するゆるやかなチームをつくり、コラボレーション商品を作ったり、真庭市の発酵食のPRなどをしたりしている。今回はこのうち、「河野酢噌味みそ製造工場(酢・味噌・醤油しょうゆ)」「御前酒蔵元辻本店(日本酒)」「美作ビアワークス(地ビール)」「ひるぜんワイナリー(ワイン)」「蒜山ひるぜんラッテバンビーノ(チーズ)」を、2日かけて巡った。

最初に向かったのは、発酵’sの代表、河野尚基さんのいる「河野酢味噌製造工場」だ。ここでは創業した1888年当時の蔵や杉おけ、地下から湧き続ける天然水を用い、自然発酵で酢、味噌、醤油を造る。そのときの気候に合わせた最適な状態で、蔵付き酵母を最大限に生かし、全工程手作業にこだわっている。

これがどのくらいすごいことかを河野さんの案内に沿って味噌で説明すると――米を蒸すところから機械に頼らず、蔵人くらびとの手作業で蒸し終わった米をほぐして冷まし、米に麹菌こうじきんをまんべんなくつけて、高温の麹室こうじむろに入れる。2日かけて何度も米をほぐしながら、最適な麹を作る。その後、蒸した大豆と麹と塩を混ぜ、たるに入れて自然の温度で10カ月から1年間かけて発酵・熟成。この間も蔵人が常に状態を見たり、桶の入れ替えを行ったりする――と、すべての工程で気を抜く暇はない。

見えない微生物の声を聞き分ける、職人の技

正直、1つ数百円の味噌にこれだけの手間がかかることを知って衝撃を受けた。こんなに愛情がかけられた商品を食べていたら、体が悪くなるはずがないというのは、感激しすぎだろうか。いや、河野酢味噌製造工場を筆頭に、発酵’sは、強い志を持つ人たちで構成されている。

「御前酒蔵元 辻本店」では、40年前に当時の杜氏とうじが古文書を読み解き、国内で廃れていた酒造りの手法「菩提酛ぼだいもとづくり」を復活させたり、現在の女性杜氏になってからは、日本酒になじみの薄い層に向けたシリーズを出したりと、進化を続けている。

創業3年目の「美作ビアワークス」は、ビール原料と地元食材の副原料をかけあわせ、飲みやすく楽しいフレーバーの地ビールを次々と開発中。ワインに向かないヤマブドウを美味しいワインにするため、日夜研究を重ねる「ひるぜんワイナリー」、スイスで食べたチーズに刺激を受けた酪農家が、約25年前から独学でチーズ作りの製法を学び、商品化した「蒜山ラッテバンビーノ」と、それぞれに熱い思いが伝わってきた。

商品の作り手が、どんな環境で発酵を起こす微生物の力をどれだけ引き出せているかは、現場に行けば一目瞭然。発酵食はふいに食べたくなる実家の料理のような優しさがあるが、発酵’sの作る品々は、そんな愛情を感じられるものばかり。カバンに入りきらないほど買い込んだ商品を発送して、帰路についた。

酒盛りする常連も!? 試食豊富なチーズ店

撮影=葛西亜理沙