格差社会は、誰にとっても厳しい

格差が大きい社会は、豊かな人にもそうでない人にも、誰にとっても厳しい社会です。豊かな家庭であっても、「子どもが将来この格差社会で非正規雇用になったら大変だ」という意識が強ければ強いほど、「なんとしてもいい学歴を」と考え、教育費をつぎ込み、「私立の中学、いや小学校、幼稚園から塾に通わせなければ……」と、親子ともに追い詰められていきます。

中流以上の層が公立の学校から抜けていくことによって、公立の学校のレベルが下がり、公立の学校に対する公的投資が下がり始めると、ますます余裕のある人たちは私立を目指すようになります。自己防衛に走れば走るほど、負のスパイラルに陥り、格差社会が拡大していきます。

中流以上の家庭でも、本音では、「子どもを受験戦争に駆り立てることなく、地元の学校で伸び伸びと育て、それこそ公立高校、国公立大学に進んでほしい」と思っている方が多いのではないかと思うのですが、今は、年収が1000万円以上の人でも「教育費が大変だ」と追い詰められています。

大人たちは格差社会に対しての不安感を抱え、子どもたちはプレッシャーをかけられストレスを抱えている。これではとてもハッピーな社会とはいえません。

こうした負のスパイラルを逆回転させるためにも、普通に暮らしていれば誰にでもチャンスがある、格差の小さい社会にしたほうが、すべての人にとって暮らしやすい社会になるはずなのです。

社会構造を変えるために

「では、どうすればそういう社会になっていくのか。今できることは何なのか」

よくこのような質問をいただきます。おそらく、そこで期待されている答えは「子ども食堂を増やしましょう」や、「寄付をしてください」などかもしれません。しかし、それだけでは社会は変わりません。

地域での活動や寄付は大切ですし、必要ではあるのですが、それだけでは足りません。根本的な構造を変える必要があります。ですから、選挙で一票を投じることが大切なのです。

また、あなたがもし雇用者の立場であれば、次に派遣社員の契約を打ち切るときには、少し考えてみてほしいのです。正規・非正規の格差を改善しようとしないままで、チャリティーに寄付して「貧困問題に取り組んでいる」と言う企業もあるのですが、ほかにもやるべきことがあるのではないかと思うのです。

みなさんの中には、「一票を投じても、自分にできることを一つしても、きっと何も変わらない」という感覚が根付いてしまっているかもしれません。しかし、私はむしろ、社会が変わる気配はこのところ高まってきていると感じています。例えば、オンラインで署名を集めることができるChange.orgなどが広まり、集まった人びとの意志が実際に政策に影響を与えるケースが増えてきました。政治家の側も、こうした世の中の動きに敏感になってきています。

「差別や偏見はよくない」「子どもの貧困は、社会の重要な課題として取り組むべき」という雰囲気が社会全体に広がることが重要です。空気や雰囲気を変えれば、社会は変わっていくはずなのです。

子どもの貧困について考え、社会を変えようと行動することは、あなたやあなたの家族が暮らしやすい社会を作ることにつながることを、忘れないでほしいと思います。

構成=太田美由紀 写真=iStock.com

阿部 彩(あべ・あや)
東京都立大学人文社会学部人間社会学科 社会福祉学教室教授、子ども・若者貧困研究センター センター長

マサチューセッツ工科大学卒業。タフツ大学フレッチャー法律外交大学院修士号・博士号取得。国際連合、海外経済協力基金、国立社会保障・人口問題研究所などを経て2015年より現職。専門は貧困、社会的排除、社会保障論。著書に『子どもの貧困―日本の不公平を考える』『子どもの貧困II――解決策を考える』など