あなたの周りへの配慮から社会は変わっていく

数年前、知り合いの研究者からこんな話を聞いたことがあります。

貧困についてテレビで取材を受けた時、相手のアナウンサーから「貧困の人って、本当にそんなにいるんですか?」と聞かれたそうです。

その研究者が、「フリーランスや契約社員、派遣社員の方、おそらくここにもいらっしゃいますよね」とたずねると、カメラマンをはじめスタッフの方が次々と「私はフリーランスです」「契約社員です」と声を上げたそうです。日本の労働者の約4割は非正規です。会社の同僚に非正規の人がいないとしても、会社の中でみなさんのお仕事を支えてくださっているたくさんの方々、ビルの清掃や警備員の方、食堂の方、いろいろな職種の方を考えていただきたいのです。

非正規雇用の場合、体調や景気の悪化などの要因で、突然収入が減ったり断たれたりする可能性が正社員に比べ高くなります。つまり、相対的貧困の状態に陥る可能性が高いのです。少し想像力を巡らせると、ギリギリのボーダーラインにいる人や、すでに相対的貧困の状態にいる人が、あなたのすぐ近くにいるかもしれません。

自分の周りを見渡して、少しそうした想像力を働かせてみてください。例えば、春に実施された突然の一斉休校は、どの家庭にとっても大変でしたが、非正規雇用のひとり親家庭には死活問題でした。周りのいろいろな状況にある人たちに思いを寄せる。そうした身近なところから社会は変わっていくと思います。

構成=太田美由紀

阿部 彩(あべ・あや)
東京都立大学人文社会学部人間社会学科 社会福祉学教室教授、子ども・若者貧困研究センター センター長

マサチューセッツ工科大学卒業。タフツ大学フレッチャー法律外交大学院修士号・博士号取得。国際連合、海外経済協力基金、国立社会保障・人口問題研究所などを経て2015年より現職。専門は貧困、社会的排除、社会保障論。著書に『子どもの貧困―日本の不公平を考える』『子どもの貧困II――解決策を考える』など