「無能感」は自分を変える良いきっかけになる

無能感や無力感を味わう経験は、価値観を変える上ではいいきっかけになります。つらい思いをしている人には、この機会に価値の軸を「仕事だけ」から家庭や地域にも広げてほしいと思います。

時代に合わせて今のうちに自ら変わることができれば、以降の人生で得られるものはぐんと増えるはず。定年後の人生にも大きく役立つと思います。

職場でも、彼らの変化を後押しすることは可能です。評価基準が変わったからといって、年配の人たちの経験がすべて無になるわけではありません。職場の人や顧客と信頼関係を築くには、出社や対面が望ましい場合も多々あります。

人間関係には、直接会わないと分かり合えない部分も存在します。表情やジェスチャーといったノンバーバル(非言語)コミュニケーションは、リモートでも可能ではありますが、リアルで会ったことのない人が相手だとやはり読み取りにくいもの。

一度リアルで会っておき、その後リモートに切り替えたほうがうまく進む場合もあるでしょう。その意味では、昭和上司の「その場にいることが大事」という価値観も全否定はできません。

直接会わなくても進められる業務は何か、会うべき業務はどれか。多くの企業がリモートワークを経験した今だからこそ、世代を超えて議論を重ねるべきではないでしょうか。業種によっては、リモートで置き換えられない部分もきっと出てくるだろうと思います。

おじさんを全否定しても良い結果を生まない

今、評価基準の変化によって無能感や無力感を感じている人は、働き方を変えられる立場なのに変えてこなかった人たちでもあります。しかし、彼らの価値観を全否定してもいい結果は生まれません。互いにいい面は取り入れていこうという姿勢で、ともに議論していくことが大切です。

中には、時代に合わせて変わろうとしているけれどITはどうしても苦手という人もいるかもしれません。もし、そんな上司からオンライン会議の設定などを頼まれたら、快く手伝ってあげてほしいですね。ただし、最終目標は上司が自分でできるようになること。雑用の丸投げが続かないよう注意しつつ、変化を後押ししてあげてほしいと思います。

構成=辻村洋子 写真=iStock.com

田中 俊之(たなか・としゆき)
大正大学心理社会学部准教授

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2017年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。