会社は勤務制度の改定を決定した

この実証実験の結果は経営会議で提言され、最終的には勤務制度の改定が決定。ここまでの成果を出せたのも、彼女たちが初めから「会社を動かす」ことを念頭に置いていたからだ。実証実験の中身を決めるにあたっては、まず経営企画室に会社の方針や課題を聞き取った。これも、実現可能な改革案を出すためのテクニックの一つだ。

「会社の方針を聞くと、現場は人手が足りなくていっぱいいっぱいだけれど、経営側はコストや人材を削減したいと考えていることがわかりました。この違いを乗り越えるには、人員を増やさずに効率を上げるしかない。ここから、営業職にパサーに回ってもらう案が生まれました」(吉永さん)

もうひとつ、彼女たちがパサーの新設と並行して進めた改革がある。社内コミュニケーションを活性化させるための「スターポイント制度」だ。これは、社内イントラで感謝のメッセージやポイントを送り合うもの。

普段は表現しにくい感謝の気持ちを伝え合うことで、互いに仕事への意欲を高め、協力体制を強めようという思いから生まれた。これは営業担当者と生産部門(工場)との信頼関係構築にもつながり、実証実験でも好評の声が多く寄せられたという。

結果、スターポイント制度は年に一度の恒例イベントとして行われることが決定。営業女子たちの改革案は2つとも、全社的な展開が決まった。この4月からは業務改善グループも立ち上がり、さらなる改善に向けて議論が進められている。

営業本部長の小嶋司さんは「理想をかなえようというチームメンバーの熱意が実現につながった。若手を中心に改善に向けた声が上がるようになり、年配者も追いつこうと努力を始めている」と語る。

もう不満には目をつぶらない

今後の目標は「改善を日常に」。働き方に不満があっても、それらは時間・体力・精神力を注げば何とかこなせてしまう。しかし、そうやって我慢を続けていては、不満はいつまでたってもなくならないままだ。

「今回の改革で自信ができた。これからは小さな不満に目をつぶらず日常的に改善業務に取り組んでいきたい」と吉永さん。他のメンバーも「変えたいことがあれば上層部に伝えられる、変えられるとわかった」「他の女性社員にも行動すれば変わると知ってほしい」と、前向きな思いを口にする。

実証実験後に起きたコロナショックは、営業職の働き方にも大きな変化をもたらした。顧客のもとや遠方の工場へは出向きにくくなり、対面できない分、より密なコミュニケーションが求められるようになっている。パサーやスターポイント制度は、この点でも効果を発揮しそうだ。

時間・体力・鋼のハートを「持たなくても」働き続けられる環境へ。彼女たちが成しとげた改革は、後に続く営業女子たちにとっても大きな意義を持つ。いずれ、女性営業比率0.8%からの脱却にもつながっていくのではないだろうか。

文=辻村洋子