営業を支える新職種「パサー」とは

こうした点を改善すればもっと働きやすくなるのでは、と考えた営業女子たち。吉永さんや落合さんを含む営業女子5人でチームを組み、どうすれば改善できるのかを探り始めた。

最初に業務の棚おろしを行ったところ、営業業務のうちおよそ80%が工場とのやりとりなどの社内調整に割かれていることが判明。本来の業務である顧客提案は16%に過ぎず、ここが時間や体力配分の大きなネックになっていることがわかった。

そこで考え出したのが「PASSER(パサー)」という新職種だ。これは、従来は営業が担当していた社内業務を代行するもの。同社には営業事務という職種はあるが、こちらは出荷処理や経理作業がメイン。技術部門や生産部門とのやりとりには交渉能力や商品知識も必要になってくるため、新たな職種をつくって営業経験者を配置できないかと考えたのだ。

チームメンバーでパサーの名づけ親でもある営業本部の沢城美香さんは「社内に新風を吹き込むため、あえて耳慣れない名前をつけた」と言う。営業業務の司令塔になってほしいという思いを込めて、試合の流れをコントロールする中心選手を指すサッカー用語からとった。

営業活動に使える時間が1.5倍に

実証実験では、メンバーのうち2人がパサー、3人がそのまま営業として活動。約1カ月間の実験の中で、パサーに業務を代行してもらった営業担当者は外出できる時間が1.5倍になり、顧客対応に集中できるようになったという。

具体的な成果としては、新規3件、年間1000万円の受注が得られたほか、新製品の初受注にも成功。パサーが営業をバックアップすることで対応もスピーディーになり、この点も顧客から高く評価された。

また、パサーが部署の垣根を越えて活動することで、営業同士の間に横のつながりも生まれた。同社では、同じ営業職でも部が違えば扱う商品も顧客の業界も異なる。そのため、以前はあまり交流の機会がなかったそうだが、パサーが架け橋になることで他部署の営業手法を学ぶことができ、効率アップにつながったという。

実験でパサー役を務めた沢城さんは、「パサーがいれば営業職の人は大いに助かる」と強く実感したそう。自身も営業職の一人として、限られた時間で多くの社内業務をこなさなければならないことに、いつも焦りを感じていたという。

パサーは業務の効率化だけでなく、営業職の心のゆとりにも大きく貢献できる──。この“ゆとり”は、女性はもちろん男性にとっても、長く働き続ける上で欠かせないものだろう。