同質的でない「カラフルな世界」を目指したい
もうひとつ、同質性への危機感もあります。
昔から、同質性が高い環境が嫌いなのですが、長年新規事業に携わり、イノベーションやアート思考について研究する中で、集団には「異質性」を内包しておくことが大事だと強く思うようになりました。
世界史を見ても、過去の企業の不祥事を見ても、同質的な集団が一斉に同じ方向へ走って悲惨な結果を招いた例は少なくありません。僕が男女比について発言するのは、同質性が高く、価値基準が一つしかない集団は危険だし、新しい価値が生まれないという思いがあるからなのです。
ここまで男女比に注目して話をしてきましたが、実はジェンダーを男性と女性の二分法で語ることには危険性もあります。男性と女性だけを取り上げると、その2つしかないように見えますし、2つの性の間にあるグラデーションが消えてしまいますよね。
台湾では、トランスジェンダーのオードリー・タンさんが史上最年少で入閣しました。この台湾の成熟ぶりに比べたら、今の日本の価値観は、僕には白黒映画のように思えます。白黒映画では、明度が同じなら赤いリンゴも緑色のリンゴもグレーに見えますが、本当の世界はもっとカラフルで、白と黒のグラデーションだけでは表現しきれないもの。
映像表現がぐんと豊かになったように、社会もさまざまな色合いやグラデーションをそのまま見ることができるようになったら、より豊かになるはずです。
とはいえ、映画も白黒からいきなりフルカラーになったわけではありません。白黒に手作業で拙い色をつけていた時代があり、2色カラーの時代があり、やっとフルカラーになったのです。
今の日本はまだ、カラフルな世界への移行期。1色ずつ足していきながら、最後はフルカラーの、誰もが古いジェンダー観に縛られず、それぞれのカラー、それぞれが持つ「いびつさ」を維持したままで能力を発揮できる社会をつくっていけたらと思っています。
構成=辻村洋子
建築士としてキャリアをスタート。その後東京大学にてアート研究者となる。2006年、モバイルインターネットに可能性を感じIT業界に転身。NTTドコモ、DeNAにて複数の新規事業を立ち上げる。2017年、女性主体の事業をつくるスタートアップとして『uni'que』を創業。2019年には女性起業家輩出に特化したインキュベーション事業『Your』を立ち上げ、新規事業を多数創出している。著書に『ハウ・トゥ アート・シンキング』『ぐんぐん正解がわからなくなる! アート思考ドリル』(いずれも実業之日本社)などがある。