コロナ後は職を失うリスクを覚悟しておくべき

貯蓄をしっかりとしておいた方が良い3つ目の理由は、3.「生活資金を確保しておくことの重要性」です。今回のコロナ禍は、まだまだ収束には程遠い感があります。自営業やフリーランスの人たちと違って、サラリーマンで給料が大きく下がったという人はまだそれほど多くはいないでしょう。しかしながらこのまま行けば年末のボーナスは多くの企業で大幅減になることが予想されるでしょうし、既に破綻した企業も出始めています。

つまり今回のような想定外の出来事によって職を失ってしまうリスクはコロナ後の社会では覚悟しておく必要があるのです。いつ何時、そういう事態を迎えたとしても半年や1年ぐらいは生活していけるだけの資金を預金で確保しておけば多少は安心することができます。したがって投資は大事ですが、少なくとも半年~1年分ぐらいの生活費に相当するお金は投資へ回すよりも現金でおいておくほうが良いということなのです。

投資家にとって一番残念なこと

そして最後、4つ目の理由は、現在、投資をしている人にも大切なことです。それは4.「常に一定のキャッシュポジションを持っておくことの必要性」です。今回、コロナ禍で1月中旬から3月中旬ぐらいまでの2カ月ほどの間にマーケットは大幅に下落しました。率で言えば日経平均株価は32%ほど下がったのです。ところが3月19日を底にしてそこからほぼV字回復と言って良いほど急激に株価は戻ってきました。その後の高値を見ると約40%程度は戻っています。大底で買うことはできなくても3月下旬から4月上旬ぐらいの下がっていたところで株を買っていれば、日経平均でも3割以上の上昇、個別の銘柄では倍以上になっている銘柄はたくさんあります。ところが今回に限らず、大きなショックで株価が下げると必ず「今は下がって買い時だと思うけど、資金がないのが残念だ!」という声が出てきます。

私自身、今まで何万人もの投資家の相談に乗ってきましたが、誰もが自分の投資歴を振り返ってみて「下がった時に資金がなくて買えないことが一番残念だったことだ」と一様に言います。

したがって、どんなにマーケットが好調な時でも常に一定のキャッシュポジションを持っておくことは投資家にとっては必須なのです。もちろん「あの時に買っておけば良かった」というのは後講釈であり、当時はまだまだ怖くて買えなかったという人も多かったことでしょうが、少なくとも手持ちの現金が無ければいくら勇気があっても買うことはできません。私のように資産運用のメインを株式投資でおこなっていてもこうした暴落に備えて一定の預金は必ず保有するようにしています。

お金をできるだけ効率よく動かすためには投資が必要というのはその通りですが、人生においては、何が起きるかわかりません。お金の管理で大切なことはバランスです。一定割合の預金は保有しつつ、自分でリスクを取れる分は投資に回すというのが理想的なのではないでしょうか。

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大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト

大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。