企業の取り組みや今回の法改正によって、被害者が声をあげやすくなるのは喜ばしい傾向だが、職場のパワハラをなくすためには管理職をはじめとした一人ひとりの心がけが必須だ。企業のコンプライアンスの部署は被害者だけでなく、すべての人の相談窓口となっているので、「部下とのコミュニケーションがうまくいかずキツく言いすぎてしまう」など、管理職側の相談でも利用したい。「女性管理職はひとりで解決しようと頑張りすぎる傾向があります。相談できる上司や先輩などを社内で持つことも大切です」(稲尾さん)
防衛反応で否定すると、事態の悪化を招くことも
職場で起きたパワハラは当事者の告発によって明らかになることが多い。社内や外部の窓口が当事者に聞き取りをして調査対応を行い、パワハラと判断されれば就業規則にのっとって処分を行うのが一般的な流れだ。職場でパワハラが起きたら、管理職はどう対処すべきだろうか。
ハラスメントの加害者が懲戒処分を受けたり、訴訟にまで発展したりとこじれてしまうケースは、初期対応を誤っていることがほとんどだという。「『パワハラをされた』と言われると、とっさに否定してしまうことがあります。特にこれまで順風満帆に出世してきた人ほど、社会的立場が揺らぐことに動揺して冷静になれないケースが多いのです。こうした自己防衛反応が状況を悪化させてしまいます」(菅谷さん)
パワハラを否定するばかりか、部下に非があるかのような反論をすると、通報した側も音声データなどの証拠を手に臨戦態勢を整える。反射的な否定は、「初期の鎮火」という解決の道を自ら閉ざすことになるのだ。
「まずは上司と部下との間に軋轢が生じている事実を冷静に受け止め、何が原因で告発に至ったのかを考えて整理します。心当たりがあれば、早い段階で率直に謝罪しましょう。自分では指導の範囲と思っても、すぐに否定せず、第三者の意見を聞いてみるなどして、冷静に対処することが大切です」(菅谷さん)