次世代にも受け継がれるおじさん精神
コロナ自粛中、会社における自分の地位だけがアイデンティティの昭和おじさんたちは、寂しくて寂しくて仕方なかったみたいだ。意味もなく部下を呼びつけて意味もなく「ここだけ(本当かね)」の長話を滔々と聞かせていい気持ちになれない。意味もなく大きな会議室で、意味もなく長い会議で何か考えているふりをして時間をつぶせない。若い女性社員とかに向かって「今日は夜が○○社の接待で赤坂だから、昼は○○(←名店)のカツサンドでいいんだ」とか、会話の端々でいちいちドヤれない。「忙しい(はずの)仕事の合間を縫って」ゴルフにも行けないし、夜の街でいつものオネエちゃんの膝の上にも行けない。
えー、そんなのいまどきいる? 充分にいるんですよ、これが(笑)。なんなら、行き先はマイナーチェンジしながらも同じ精神をしっかりと継承して、数は減りながらもしっかり下の世代が育っているくらいだ。たぶん、「おじさん」の精神はそこんとこ普遍的なのだろう。
自由に振る舞える会社や開放感あるゴルフ場のグリーンや、オネエちゃんの柔らかい膝の上の代わりに自粛中の昭和おじさんたちがあてがわれたのは、「地球上で一番居心地が悪いからこそ今まで逃げてきた自宅」、そして「俺に向かっては絶対出さないような甘い声で猫や小型犬を可愛がって俺の声が聞こえないフリをする妻」である。
もう、コロナも怖いけど妻も怖い。外に出かけるのも内にこもるのも困難。八方塞がりで、辛くて辛くて仕方なかった昭和おじさんたちの中には、マスクして自分以外の誰もにジロジロ警戒して近所を散歩しながら、安倍総理とか「専門家委員会」とか小池都知事とか、どこかの不幸にも身バレされた発症者とか、「自粛を守らない不届き者」とかにイヤらしくも八つ当たりしていた人もいるようだ。
ああ、自由になりたい。会社はいいよなぁ。会議室での会議はいいよなぁ。なんだあのオンラインって、あんなテレビ会議でまともな話なんかできるわけないだろ。「みんな」に会いたいなぁ。通勤だって今じゃむしろ懐かしい。早く「本当の会議」がしたいなぁ……。
自粛解除だっ!(バンザイ!)
5月25日午後、小池都知事がいよいよ東京都の緊急事態宣言を解除すると、世間の反応は真っ二つに割れた。
というより、良識的な(はずの)社会人たるみんなは、マナーとして「ええ……そうなの……まだワクチンないけど……ちょっと不安」という顔をしていた。だが内心は
「マジかよ嘘だろ、またあの殺人的な通勤とか会社生活とかやだよ……。もう一生テレワークでいいじゃん、それでイケるの自粛期間で証明されたじゃん」
という、働き方改革のあっけなくも急激な進歩を心から歓迎していた人たちと、
「いやーそーですよねー、もうずっと自粛なんかしてたら経済がっ! ねっ! さあみんな今まで通りに、いや今まで以上にまず出社しよう、会議しよう、稼ごう(失われた俺の/アタシの楽しい人生を)取り戻そう!」
という、時代のイノベーションに圧倒的に取り残された人たちに(極端化すると)分かれたのである。
さて、会議が仕事の昭和会議おじさんたちは、しばらくは(自分も新型コロナにかかったら困っちゃうから)様子をうかがっていた。で、いよいよ大丈夫なんじゃないかと思うと満面の笑みで
「もうそろそろみんなで社に集まって、『本当の会議』しなきゃダメだよねー。やっぱり効率悪いし、伝えなきゃいけないこと(俺のありがたい話)がちゃんと伝わっていない(みんなが俺の話を神妙な面持ちで聞いていない)ケースが多かったですよ?」
と、いかにも「決して俺の本意ではないけれども、社やチームの生産性のためにやはりどうしても仕方なく」と言いたげにテレワーク解除を切り出した。それに対し、部下、特にいま本当に実質的に忙しい人生を送っている子育て中の社員たちが一斉に思ったのはこうだ。
「ウソつけ、効率とか生産性を持ち出すな。アンタが暇なだけじゃん。本当に生産性の向上を目指すのなら、まずアンタが(以下略)」