オンライン会議でバレがちな「あの人たち」の残念さ
オンライン会議ツールの開発会社へ、「会議出席者がみんな同じ大きさだと困る。社長や役員など、偉い人順に画面上で大きく表示される方法はないか」という問い合わせがあったのだ、しかも複数、という話を又聞きして、腹の皮がよじれるかというくらい笑った。
どこかの組織でオンライン会議をやってみたのだろう。そして、普段エライはずの社長や役員やブチョーが、画面の隅っこから著しく精彩に欠ける小さく弱々しい風貌と聞き取りづらい声で、実にどうでもいい精神論とか「今こそ全社一致して立ち向かうべき未曾有の危機」みたいな誰でも言えることを長々と喋るうちに、他の若手社員たちの目が次々と死んでいき、そっと画面を静止画に変えてどこかへ休憩に行ったりSNSを見始めたり、隠れて「どうぶつの森」の続きをしたりするのを見て、側近や部下が
「ヤバい、オンライン会議は上司たちが本当は偉くもなんともないのがバレてしまう」
と、「未曾有の危機感」を抱いたのだろうと思う。
次世代にも受け継がれるおじさん精神
コロナ自粛中、会社における自分の地位だけがアイデンティティの昭和おじさんたちは、寂しくて寂しくて仕方なかったみたいだ。意味もなく部下を呼びつけて意味もなく「ここだけ(本当かね)」の長話を滔々と聞かせていい気持ちになれない。意味もなく大きな会議室で、意味もなく長い会議で何か考えているふりをして時間をつぶせない。若い女性社員とかに向かって「今日は夜が○○社の接待で赤坂だから、昼は○○(←名店)のカツサンドでいいんだ」とか、会話の端々でいちいちドヤれない。「忙しい(はずの)仕事の合間を縫って」ゴルフにも行けないし、夜の街でいつものオネエちゃんの膝の上にも行けない。
えー、そんなのいまどきいる? 充分にいるんですよ、これが(笑)。なんなら、行き先はマイナーチェンジしながらも同じ精神をしっかりと継承して、数は減りながらもしっかり下の世代が育っているくらいだ。たぶん、「おじさん」の精神はそこんとこ普遍的なのだろう。
自由に振る舞える会社や開放感あるゴルフ場のグリーンや、オネエちゃんの柔らかい膝の上の代わりに自粛中の昭和おじさんたちがあてがわれたのは、「地球上で一番居心地が悪いからこそ今まで逃げてきた自宅」、そして「俺に向かっては絶対出さないような甘い声で猫や小型犬を可愛がって俺の声が聞こえないフリをする妻」である。
もう、コロナも怖いけど妻も怖い。外に出かけるのも内にこもるのも困難。八方塞がりで、辛くて辛くて仕方なかった昭和おじさんたちの中には、マスクして自分以外の誰もにジロジロ警戒して近所を散歩しながら、安倍総理とか「専門家委員会」とか小池都知事とか、どこかの不幸にも身バレされた発症者とか、「自粛を守らない不届き者」とかにイヤらしくも八つ当たりしていた人もいるようだ。
ああ、自由になりたい。会社はいいよなぁ。会議室での会議はいいよなぁ。なんだあのオンラインって、あんなテレビ会議でまともな話なんかできるわけないだろ。「みんな」に会いたいなぁ。通勤だって今じゃむしろ懐かしい。早く「本当の会議」がしたいなぁ……。
自粛解除だっ!(バンザイ!)
5月25日午後、小池都知事がいよいよ東京都の緊急事態宣言を解除すると、世間の反応は真っ二つに割れた。
というより、良識的な(はずの)社会人たるみんなは、マナーとして「ええ……そうなの……まだワクチンないけど……ちょっと不安」という顔をしていた。だが内心は
「マジかよ嘘だろ、またあの殺人的な通勤とか会社生活とかやだよ……。もう一生テレワークでいいじゃん、それでイケるの自粛期間で証明されたじゃん」
という、働き方改革のあっけなくも急激な進歩を心から歓迎していた人たちと、
「いやーそーですよねー、もうずっと自粛なんかしてたら経済がっ! ねっ! さあみんな今まで通りに、いや今まで以上にまず出社しよう、会議しよう、稼ごう(失われた俺の/アタシの楽しい人生を)取り戻そう!」
という、時代のイノベーションに圧倒的に取り残された人たちに(極端化すると)分かれたのである。
さて、会議が仕事の昭和会議おじさんたちは、しばらくは(自分も新型コロナにかかったら困っちゃうから)様子をうかがっていた。で、いよいよ大丈夫なんじゃないかと思うと満面の笑みで
「もうそろそろみんなで社に集まって、『本当の会議』しなきゃダメだよねー。やっぱり効率悪いし、伝えなきゃいけないこと(俺のありがたい話)がちゃんと伝わっていない(みんなが俺の話を神妙な面持ちで聞いていない)ケースが多かったですよ?」
と、いかにも「決して俺の本意ではないけれども、社やチームの生産性のためにやはりどうしても仕方なく」と言いたげにテレワーク解除を切り出した。それに対し、部下、特にいま本当に実質的に忙しい人生を送っている子育て中の社員たちが一斉に思ったのはこうだ。
「ウソつけ、効率とか生産性を持ち出すな。アンタが暇なだけじゃん。本当に生産性の向上を目指すのなら、まずアンタが(以下略)」
「仕事のできない人に限ってリアル会議したがるんですよ」
ある若手女性社員はため息をつく。「もう、どうしてああいう会議おじさんってうれしそうに『会社にカムバック!』って叫ぶんですかね。全てがテレワークで回ることがわかってしまった自粛期間中、一番問題になったのは会議おじさんさんたちがいかに仕事ができないかってこと。彼らにとっては会社に出社することと、会議することが仕事なんですよ。給料泥棒ですよね?」
他のキャリア女性も、会議おじさんをバッサリ斬って捨てる。「仕事ができないわりに偉ぶる人に限って、リアルで会議したがる傾向はありますね。オンライン会議で連絡事項や意思決定のための議論を端的に効果的にプレゼンテーションする能力がないのを、リアルに会うことで補完できると思うのでしょう。でもそういう人は、そもそもリアルでも大したことは言えていないです」
とある会社では、部長職に子育て中の男女社員が多いために、部長級から率先して「できる限りテレワークで進めましょう」との申し出があったそうだ。「そういう部署は、成績もいいんです。リーダーがいかに効率的に働くかを実践していますからね」と、社員は話す。「オンライン会議、というかテレワーク全体がリアル出社と比べてどういうメリットとデメリットを持つか、定量的に評価できているので、社内にも説明が効くんです」
部長が子育てボスで生産性も高いだなんて、職場IQが高そうだ。「妻から聞こえないふりをされて自宅に居づらい昭和の会議おじさん」が、自分が仕事をしているポーズのために部下に出社を要求する職場のIQはどうだろう。
おじさん、本気で会社以外の居場所を見つけてください
会社は、おじさんたちの寂しいアイデンティティを「いい子いい子」してあげる場所ではない。基本的に心根の優しい女性社員たちは、口を揃えてこう言う。「おじさんたちも、何か人生が充実するような趣味をたしなんだり、会社以外の居場所を見つければいいと思うんですよ」。部下にお守りをさせないでくれ、という厳然たる意思表示である。
2020年3月、リクルートワークス研究所は『マルチリレーション社会』と名づけられたレポートを発表、趣味や仲間や地域や学びといったキーワードから生まれる「つながり」に富んだ社会像を次世代に向けて提唱した。日本の、特にミドル男性層におけるそういったつながりの欠乏を指摘しており、家庭と会社にしか人間関係と居場所のない彼らが「つながり」を構築することで幸福感やキャリアの見通しを改善できると報告している。
家庭と会社以外に、居場所はありますか。テレワークの普及は、新型コロナで「やむを得ず」広まったのではなくて、多様な生き方や価値観を内包するこれからの社会で生きる私たちには必然だったのです。寂しくて「会社にカムバック!」と叫ぶおじさん、これからのご自分の長い人生のために、本気で会社以外の居場所を見つけてください。