少数派ゆえ、存在自体に違和感を持たれることも

一般的に、少数派は集団の中で目立つものです。少ないというだけで目を引いてしまうので、周囲にはその存在自体に違和感を覚える人も出てきます。また、少数派全員をひとくくりにしてとらえる人もいます。

キッズラインの対応は、少数派である男性シッターをひとくくりにした結果であり、はたから見れば逮捕者を男性シッターの代表としてとらえたようにも映ります。これは非常にまずいことで、男性のシッター業への参入を阻む結果にもつながりかねません。

従来、日本では保育や看護といったケアワークは女性的な職業と見られてきました。職名こそ保育士、看護師と性別を意識させない形に変わりましたが、現状はまだまだ女性が圧倒的多数を占めています。

男性のケアワーク参入2つの壁とは

今後は労働人口が減っていくことを考えると、こうした業種へも男性が参入しやすい社会をつくっていくべきでしょう。そのためには、ケアワーク=女性向きというバイアスを解消するとともに、これらの業種で問題となっている低賃金も見直していく必要があります。

日本には、男性は一家の大黒柱であるべきという価値観も根強く残っています。この価値観がある限り、男性は低賃金の職には就きにくいのです。男女共通の低賃金という問題、そして男性に偏って課された“大黒柱ルール”、この2つは同時に解消していかなければ、ケアワークへの男性の参入は進みにくいでしょう。

残念ながら、今回のような事件は今後も起こる可能性があります。風化させないためにも、シッター業界はどんな対策をとるべきなのか、僕たちは性の問題をどう扱うべきなのか、さらなる議論が必要だと思います。

加えて、集団における少数派は、「既存のジェンダー観」を押しつけられがちです。男性中心の職場にいる女性は、男性から「女性の意見を聞かせてくれ」「女性ならではの視点を」などと言われることも少なくありません。私は女性代表ではないのに……と思ったことがある人もいるのではないでしょうか。

今回の逮捕者も、決して男性シッター代表ではないはずです。少数派である状態が解消されていれば、性別でくくっての予約停止も起きなかったでしょう。これは、あらゆる仕事において男女平等・男女均等を目指すべき理由のひとつでもあります。男女ともに安心して希望の業種に参入できる、既存のジェンダー観にとらわれない社会になることを望みます。

構成=辻村洋子 写真=iStock.com

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。