リモートワークに否定的だったインド企業

多くの優秀なIT技術者を輩出し、IT先進国というイメージが強いインドだが、実はコロナ以前はほとんどリモートワークが進んでいなかった。都市部を除けば、インターネットの回線整備は不十分で、通信は不安定。そして大多数の企業は、リモートワークにはネガティブなイメージを持っており、従業員がサボるのではないかと考えて積極的な導入には踏み切れていなかった。例えば、インドの大手IT企業インフォシス(Infosys)ですら、コロナ以前はリモートワークが可能な従業員は、全体の15%までと考えていた。

しかしロックダウン中は、医療関係や行政関係の業務など、国が認めた職業活動以外の勤務は禁止されたため、相当数の企業がリモートワークをせざるを得なかった。そして多くの企業、特にIT関連企業が、リモートワークの成果を高く評価しており、新たなワークスタイルへの期待を明らかにしている。インフォシスの元CEO、モハンダス・パイ氏も、地元の経済紙フィナンシャル・エクスプレスのインタビューで、将来にはIT産業における仕事の9割がリモートワークに移行できるだろうと述べている。

メイドなしでは回らないミドルクラスの働く女性

インド政府はロックダウンを継続しているが、ベンガルールのあるカルナタカ州は、5月中旬からロックダウンを緩和し始めている。感染者が出ていない地域では、バスや鉄道、理容室などの営業の再開を認め、タクシーなどの個人サービスもソーシャルディスタンスを保って営業して良いことになった。

今回の経験で、リモートワークに否定的だったインドの企業でも、在宅勤務の導入が進みそうだ。ロックダウンが緩和されれば、ミドルクラス家庭にもメイドが戻り、リモートワークの恩恵を受けられる女性も出てくるだろう。

しかし、女性に大きく偏り、手作業に頼る家事労働は、なかなか変わりそうにない。もし今後、新型コロナウイルス感染拡大の2波、3波で再び大規模なロックダウンになってメイドが不在になった場合、また同じことが繰り返されないか、心配は残っている。

写真提供=さいとうかずみ

さいとう かずみ(さいとう・かずみ)
インド在住ライター

2007年よりインド在住のライター。インドで出産、子育ての経験を経て、医療、教育、社会、子育て、環境、政治、ITなどについて様々な媒体に寄稿。2017年より2年間インドネシアに住み、現在は南インドのベンガルールに居住。海外在住ライター集団「海外書き人クラブ」会員。