家事に追われるインド女性の1日

インドで働く既婚女性の状況を知ってもらうために、ベンガルールに住む30代の女性ディピカさん(仮名)の例を紹介したい。インドでは、まだ保守的な家庭が多いため、実名では取材を受けてもらうことができず、仮名を条件に話を聞かせてもらった。

ディピカさんは、夫の転職先であるベンガルールに、約1年前に引っ越してきた。サラリーマンの夫、私立学校に通う9歳の息子、プレスクールに通う4歳の娘、夫の両親、犬1匹と暮らしている。インドの典型的なミドルクラス家庭だ。長く教員をしており、ベンガルールの私立小学校でも社会と理科を教えていた。

以前は月曜から金曜まで、朝7時に家を出て、子どもたちと同じスクールバスで通勤していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で勤め先は休校になり、リモートワークをすることになった。

それからディピカさんの生活は大きく変わり、1日中家事に追われる日々が始まった。

朝起きるとすぐにキッチンでお茶を沸かす。かつてはジョギングをしていたが、その時間はない。朝の散歩から戻った義理の両親にチャイを出すと、ダール(豆)を圧力鍋で一気に煮る。北インド出身の彼女は、朝は郷土のダールスープを食べ、南インド出身の夫とその両親には、発酵させた生地を薄く焼いたマサラドーサを作る。長男は、休校になってからは朝ゆっくりできるため、「パンケーキが食べたい」など注文が多くなった。4歳の長女は、キッチンで働く彼女のパンジャビブラウスの裾をつかんで離れない。

新聞を読んでいる夫に「犬の散歩の時間よ」と声をかけるが、「犬の散歩は君の仕事だろう」と意に介さないので、仕方なく犬を連れ出す。家族6人分の食事の用意と後片付け、洗濯や掃除。座る暇もなく立ち働く間も、勤め先の小学校の児童が提出してくる宿題が気になる。特にリサーチや実験の宿題は、短時間で読み終えることが難しい。家族が寝静まったあとに仕事をしようと思うものの、慣れない家事で疲れがたまり、長女を寝かしつけながら自分も眠ってしまう日々だ。

コロナ休校とリモートワークは、インドだけでなく世界各地の多くの女性に、大きな負担を課すことになった。日本でも、子どもの面倒をみながら家事をし、さらに在宅で仕事をこなすことを余儀なくされ、悲鳴を上げた女性は多いが、インドの働く女性にはまた違った負担がのしかかった。これまでインドのミドルクラス以上の家庭で家事を担っていたメイドが、ロックダウンで働けなくなったからだ。