日本人に合ったコミュニケーション方法

相貌心理学は、その人の「いい悪い」を判断するための学問ではありません。その人を理解するための学問であり、(中略)「顔」に表れたさまざまな「表出」を客観的に読み取って言語化する学問です。そこに「いい悪い」の判断はありません。ちなみに、表出とは相貌心理学では生体内部に起こっていることが顔の表面に特徴として表れることを指します。

佐藤ブゾン貴子『人は顔を見れば99%わかる』(河出書房新社)
佐藤ブゾン貴子『人は顔を見れば99%わかる』(河出書房新社)

まずは相手の顔をしっかり見ること。それは、アイコンタクトではありません。顔を見れば、そこには基本的な性格や行動スタイルなど相手に関するさまざまな傾向が反映されています。「この人はこういうタイプ」だとわかれば、人種・国籍を問わず相手に合わせたコミュニケーションをすることが可能になります。すると相手も自分のことをわかってもらえるという安心感を持ち、コミュニケーションに寛容性が生まれます。

どういうタイプなのかを理解したうえで、相手に合わせて対応していくコミュニケーション方法は、外国人がよくやる丁々発止のやりとりをすることに慣れていない日本人にとって、ぴったりではないでしょうか。

控えめでおとなしい日本人に合った、コミュニケーション方法の一つとして、とても有効なツールとなるでしょう。私が相貌心理学を勧める理由は、そこにもあります。

大切なことは、その結果を「いい悪い」で判断するのではなく、どう理解するか。判断と理解はまったく異なるものなのです。

加えて言うと、顔は常に変化するもの。顔は内面を映し出す鏡で、その人の感じ方が変われば、顔も変わっていくというのが相貌心理学の根底にある定義です。ですので、顔の変化を読み取るということは、本人さえも気がついていない内面の変化への理解と言えるのです。

この理解は、もちろん、自己分析にも使うことができます。

顔の変化を通じてモチベーションや心の動向を知ることで、日常生活における体調管理のように心の自己管理として使うことができますし、新たな人生を切り開く大きな決断や選択をする際に活かすこともできます。

(中略)

これからの時代に必要不可欠な学問

テクノロジーの進化により、これからの時代、リモートワークやテレワークが一般化することは間違いありません。あるいは遠隔医療の普及も待ったなしです。こうした分野でも相貌心理学を活用できます。

これらのシステムでは、離れた相手とパソコンやスマホの画面を通じて、コミュニケーションをしていきます。言葉のやりとりはできますが、対面ではないので、相手の息遣いや細かい表情を見ることが難しくなり、威勢のいい人のアイデアが通ったり口下手の人が不利益を被ったりすることも、リアルの場以上に起こるかもしれません。意見の集約や意思決定、病状把握に時間がかかってしまうことも「ない」わけではないでしょう。

ここで重要視すべきなのが、顔。

面識がない人や初めての患者さんとコミュニケーションしなければならないときでも、顔はハッキリ見えます。相手のことをあまり知らなくても、画面に映る相手の顔を見てそこに表れている情報を分析していけば、「この人は本音を言わない人だな」「選択の欲求が強いな」「環境への順応性が高いな」と判断できます。

対面はもちろん、離れた場所でのコミュニケーションにも大いに活用できることになります。時代や技術の変化が、相貌心理学普及の有用性を示唆してくれています。

写真=iStock.com イラスト=森 海里

佐藤 ブゾン 貴子(さとう・ぶぞん・たかこ)
相貌心理学教授

1975年生まれ。2004年、アパレルの勉強のためにフランスに渡り、現地で相貌心理学に出会い、傾倒。学会長に師事し、5年の研修課程を経たのち、世界で15人、日本人では初となる相貌心理学教授資格を取得する。帰国後は、1億人以上の顔分析に基づく相貌心理学を広めるために、セミナーやセッション、企業への講演などを行う。著書に『人は顔を見れば99%わかる―フランス発・相貌心理学入門』がある。