郵便で始まりインターネットに進化

筆者が住む、オーストラリア北東部にあるクイーンズランド州でこうした在宅教育が始まったのは、記録によると、今から約100年前の1922年です。当時は先生との郵便のやりとりによる通信教育が中心だったようで、できることも限られていたでしょう。

「昔はこんな風に学校内のスタジオから無線やラジオで授業をしていたんですよ」と実演してくれたブリスベン遠距離教育校の先生(筆者撮影)

より本格的な在宅教育が可能になったのは、1960年代。ラジオや無線通信による授業が始まってからです。この「スクール・オブ・ジ・エア」は、1951年に、オーストラリア中部のアリススプリングスで誕生し、その後オーストラリア各地にも設立されてクイーンズランド州でも始まりました。子どもたちは郵便で届く教材を使い、短波ラジオや無線を使って先生やクラスメートと連絡を取り合いながら学びました。その後、電話でのマンツーマンレッスンも加わり、現在はインターネットを使った学習が中心になっています。

最初は、学校から離れたところに住む子どもや、親の職業が旅芸人や行商などで各地を転々とする子どもを対象としたものだったのですが、現在では「親の転勤で海外に住んでいるが、現地に英語の学校がない」「集団生活になじめない」「不登校」「音楽や芸術などの分野に特異な才能を持ち、通学よりもそのレッスンにより多くの時間を割きたい」などのさまざまな理由で、児童・生徒が学んでいます。

在宅教育専門の遠距離教育校

現在クイーンズランド州内には、7つの公立遠距離教育校があり、私立校の中にも実施しているところがあります。そこでは、さまざまなスタイルの授業が行われています。

テレビ会議システムを使って複数の子どもたちが参加する授業、テレビ電話を使った1対1の個別指導があるほか、図工や美術の授業では課題が与えられ、それぞれが好きな時間に作品を仕上げて先生に見てもらいます。

担任の先生やクラスメートもいます。メールで担任の先生に学習や生活の相談に乗ってもらうこともできますし、休み時間にチャットやビデオ通話などでクラスメートとおしゃべりを楽しむこともできます。

多くの遠距離教育校では年に2度程度、校舎に子どもたちが集まります。理科の実験など、専用の設備や先生の監督が必要な勉強をしたり、みんなで協力して課題を解決するグルーブワークに取り組んだり、体育でチームスポーツをしたりと、「在宅学習ではできないこと」に取り組むのです。子どもたちにとってなにより楽しみなのは、ふだんはパソコン画面を通じてしか会えない先生やクラスメートと、顔を合わせておしゃべりをすることだそうです。