「パソコンは自分で用意して」

オーストラリアの学校でコンピューターが行きわたった背景には、「ブリング・ユア・オウン・ディバイス」という方針があります。これは、「(各家庭が)各自でパソコンを用意して」というもの。日本の家庭が子どものためにリコーダーや体操着を購入して用意するのと同様に、ノートパソコンやタブレット型端末を用意するように求めたのです。

もちろん中には、経済的な事情で用意できない家庭もあります。そうした子どものために、学校は予算を組んでパソコンを用意し、貸し出せるようにしています。こうして「1人1台のパソコンが使える」という状態を作っています。

ただこの貸し出し用パソコン(多くの場合タブレット型端末)を、「自宅に持ち帰り可」とするか「校内でのみ使用可」とするかは、学校の裁量に任されています。コロナによる休校中も、学校によって貸し出し可であったり、貸し出さなかったりと、対応はばらばらでした。

対応が割れたオンライン授業の導入

休校中の学習についても、課題を与えて提出させた学校、何もしなかった学校など、ばらつきが出ていました。中には、「さすがはIT教育先進国の学校!」と評価できるような、ネットで双方向の授業を行った学校もあったようですが、「1日5分で終わるような課題が送られてきただけ」という学校もありました。特に公立の学校では、オンライン授業はそれほど一般的ではなかったようです。国や州の政府が一律の方針を決めたり仕組みを整えたりしたわけでなく、対応は個々の学校にゆだねられたためです。迅速な行動制限が功を奏し、比較的早い段階から登校再開が見えていたことも、理由の一つでしょう。

クイーンズランド州の休校措置は2カ月弱にわたり、5月11日には、小学校1年生と、大学受験を控えた11~12年生(高校2~3年生にあたる)の登校が始まり、25日には全ての子どもが通学を再開しました。

将来またやってくるかもしれない感染拡大のためにも、オンライン授業の準備は進めておくべきだと思われますが、残念なことに、そうした議論は今のところそれほど盛り上がっていません。おそらく、ようやく学校や仕事が再開され、大人も子どももやることがいっぱいで、「それどころではない」といったところなのでしょう。一段落したときに議論が始まることを期待していますが、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」となる可能性はありそうです。

災害時や不登校の子どもへの選択肢にも

海外先進国はどこもオンライン授業が進んでおり、日本だけが出遅れたといった報道もありましたが、IT先進国と言われるオーストラリアの現実を見る限り、実際は日本とそこまでの差があるわけではないと思います。だからこそ、今からでも、「転んでもただでは起きない」という精神で、日本でぜひIT教育や遠距離教育をきっちり進めてほしいと思います。

これから先、新型コロナウイルスの2波、3波の可能性もありますし、また同じような感染症が蔓延しないとも限りません。また、地震や水害などの災害時にも、ITを利用した遠距離教育は活用できます。病気で長期入院中の子ども、集団生活になじめない子どもや不登校の子どもなどへの、学びの選択肢にもなります。「コロナのときは大変だったね」で終わらせるだけではもったいない。これを機に、社会をどう変えていくかがどこの国でも問われています。

柳沢 有紀夫(やなぎさわ・ゆきお)
海外書き人クラブお世話係、海外在住日本人ネットワークお世話係、国際文化比較ジャーナリスト

世界100カ国300人以上のメンバーを誇る現地在住日本人ライター集団「海外書き人クラブ」の創設者兼お世話係。『値段から世界が見える!』(朝日新書)、『ニッポン人はホントに「世界の嫌われ者」なのか?』(新潮文庫)、『ビックリ!! 世界の小学生』(角川つばさ文庫)など同会のメンバーの協力を仰ぎ、各国の状況を比較した著作を得意とする。「ジュニアエラ」(朝日新聞出版)、「ちゃぐりん」(家の光協会)など、月刊誌などで各国持ち回りのリレー連載も多数手がける。1999年よりオーストラリア・ブリスベンに在住。