マッチング拠出の制度がある企業でもiDeCoを選べる

次に(2)の「マッチング拠出とiDeCoのどちらかを社員個人で選べるようになる」ということですが、そもそもマッチング拠出とは何かが分からない人もいると思います。企業型の確定拠出年金では、掛金を出すのは全て会社です。ところが社員がそれに上乗せして掛金を積立てできるのが「マッチング拠出(従業員拠出)」と言われている仕組みです。現在では約3割の企業で、このマッチング拠出が採用されています。ところが、現行の法律では、社員がiDeCoに加入できるのは、会社がこの「マッチング拠出」の制度を認めていないところに限られています。なぜなら、マッチング拠出もiDeCoも社員が掛金を出すという点では同じですから、マッチングができる企業であれば、別にiDeCoが利用できなくても差し支えないと考えられていたからです。したがって、単純に考えて既にこの制度を採用している3割の企業ではいくら社員が入りたくてもiDeCoに入ることはできません。

ところが、今回の法改正では、たとえマッチング拠出の制度を採用している企業であっても、社員によって、マッチング拠出かiDeCoか、どちらでも好きなほうを選べるようになったのです。これによってどんなメリットがあるのか説明しましょう。

マッチング拠出の場合ですと、会社の掛金以上にマッチングで本人が積み立てることができません。したがって、まだ若い社員で会社が出してくれている掛金が2000円とか3000円とかの少ない金額の場合、マッチングで出せる金額もそこまでということになります。

ところがiDeCoであれば、最高は2万円まで出せますから、会社が出す掛金が少ないようであれば、自分で積立てを増やしていくことが可能なのです。加えて言えば、会社の制度の中で並んでいる商品にあまり良いのがない場合、iDeCoは自分で金融機関を選べますから、良いと思う商品のあるところと契約することが可能になります。

35年間3%で積み立て&運用すると1481万円に

このように単に加入できる年数が延びただけではなく、様々なメリットが出てきたiDeCoは、資産形成の有利な手段として、活用したほうが良いと思います。もしあなたが会社勤めで、会社に確定拠出年金があったとしても、他の年金制度がなければ月額2万円までは積立てできます。もし30歳から65歳まで毎月2万円ずつ積み立てると、積立総額は840万円ですが、仮に3%で運用できたとすれば1,481万円になります。

加えてiDeCoは掛金全額が所得控除されるので、年収が500万円ぐらいとした場合、毎月2万円ずつを60歳まで積み立てると戻ってくる税金の合計額は約144万円になります(※概算ですからその他の状況によって変わることがあります)。iDeCoに関する様々な情報はNPO法人確定拠出年金教育協会のサイトを見ると、こうした税金の計算以外にも各金融機関の比較などがあるため、参考にすれば良いかと思います。

iDeCoに限りませんが、資産形成はなかなか一度にまとめてできるものではありません。少しずつでもいいので時間をかけてやるべきです。今回の法改正をきっかけにしてもう一度iDeCoの活用を考えてみてはいかがでしょうか。

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大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト

大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。