5月末の年金に関する法改正を受けて、会社員はiDeCoの活用を改めて考えてみるべきという。企業型確定拠出年金にも入っているため、あきらめていた人は特に要チェック。その改正内容とは――。
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※写真はイメージです(写真=iStock.com/fizkes)

どの世代にも大きなメリットがある

世の中はほぼニュースの大半がコロナウイルス関連になっていますが、実は5月29日に年金に関して改正される法案が成立しました。今回の法改正は、2019年8月に行われた5年に一度の「公的年金財政検証」を受けて、いくつかの点が改正されたものです。

結論から言えば、今回の改正は、どの世代のどの立場の人にとってもかなり大きなメリットとなるものです。特に大きなメリットとなるのが、パート・非正規雇用で働いている人達です。一部の専業主婦の人にとっては、あまり変化ありませんが、独身でこういった立場で働く人は、社会保険料負担が今までよりも少なくなる可能性があり、払う分は少なくなる代わりにもらう分が多くなるからです。これについては少し複雑なので、いずれ別の機会にお話をしたいと思いますが、ビジネスウーマンにとって、大きなメリットとなるのはiDeCoの制度に関する改正です。

iDeCoについての2つの大きな改正点

今回、iDeCoに関する改正点として、話題になっているのは今までは60歳までしか加入できなかったのが、65歳まで加入できるようになったことです。今はほとんどの企業で65歳まで再雇用するという制度になっていることから、多くの人は60歳ではなく、65歳でリタイアすることになります。そこでiDeCoの積立も65歳まで続けられるようにしたということです。積立期間が長くなれば当然、その金額も増えます。現在でも女性の平均寿命は88歳ぐらいですが、恐らく今後もこの平均寿命が延びることを考えると長く働くと同時に自分自身での老後の備えを厚くすることができるのは良いことだと思います。

ところが今回、あまり知られていないのですが、iDeCoに関しては他にも意外に大きなメリットとなる改正点がありました。その改正点とは、

(1)企業型確定拠出年金の規約を変更しなくても社員がiDeCoに加入できるようになる(2)マッチング拠出とiDeCoのどちらかを社員個人で選べるようになる

という二つです。これだけでは何のことかわからない人も多いでしょうが、実はこれは結構大きな変更点、それも私たちにとって、とても有利になる改正なのです。

多くの会社員にとっては事実上加入不可能だった

まず、(1)についてです。iDeCoに関する法律が改正されて2017年からは誰でもiDeCoに加入できるようになったと言われています。ところがこの「誰でも加入できる」というのは建前上ではその通りなのですが、多くのサラリーマンにとっては事実上不可能でした。なぜなら、iDeCoは「個人型確定拠出年金」ですが、別途「企業型確定拠出年金」という制度があり、これを採用している企業に勤めている場合、会社が制度に少し手を加えないとiDeCoに加入することができないからです。

具体的に言うと、確定拠出年金には掛金額に上限が決められています。企業型の場合、最も多い場合で上限は月額5万5千円です(※1)。一方、iDeCoの掛金上限額は、その人の立場によって異なりますが、この例のように企業型確定拠出年金のある会社に勤めている人の場合は最高でも月額2万円が上限となります。

※1 他に企業年金の制度が無い会社の場合

ここで仮にこの会社に勤めている人がiDeCoに加入し、自分で積み立てられる上限一杯の2万円を積み立てたいと思ったらどうなるでしょう。法律ではiDeCoの掛金と企業型確定拠出年金の掛金を合計して5万5千円を超えることはできません。したがって、この場合、会社が出す掛金の上限を3万5千円に減らさないとなりません。するとどういうことが起きるでしょう。個人が掛金を出すことで会社の負担が減ることになります。会社としてはありがたいかも知れませんが、iDeCoなんかやるつもりのない人まで会社が出してくれる掛金を減らされてしまうのであればこれはとても迷惑です。

しかもそれを決めるためには労使で合意した上で、規約を変えなければなりません。これではまず労働側から合意を得ることは無理でしょう。だから今までは建前上はできることになっていても現実には不可能だったのです。事実、企業型の確定拠出年金を実施している会社で社員にiDeCoの加入を認めているところはわずか3.6%しかありません。

ところが今回の法改正では、「規約を変更しなくてもよい」ことになりましたので、会社が出している掛金の額と企業型の上限5万5千円の間に枠の余裕があれば、その分、個人がiDeCoに加入して自分で自由に掛金を出すことができるようになったというわけです(もちろん上限は2万円ですからそれ以上は出せません)。現在、企業型確定拠出年金に加入している人は全国で約723万人もいます。これらの人達の多くがiDeCoに加入できるようになるメリットは大きいと思います。

マッチング拠出の制度がある企業でもiDeCoを選べる

次に(2)の「マッチング拠出とiDeCoのどちらかを社員個人で選べるようになる」ということですが、そもそもマッチング拠出とは何かが分からない人もいると思います。企業型の確定拠出年金では、掛金を出すのは全て会社です。ところが社員がそれに上乗せして掛金を積立てできるのが「マッチング拠出(従業員拠出)」と言われている仕組みです。現在では約3割の企業で、このマッチング拠出が採用されています。ところが、現行の法律では、社員がiDeCoに加入できるのは、会社がこの「マッチング拠出」の制度を認めていないところに限られています。なぜなら、マッチング拠出もiDeCoも社員が掛金を出すという点では同じですから、マッチングができる企業であれば、別にiDeCoが利用できなくても差し支えないと考えられていたからです。したがって、単純に考えて既にこの制度を採用している3割の企業ではいくら社員が入りたくてもiDeCoに入ることはできません。

ところが、今回の法改正では、たとえマッチング拠出の制度を採用している企業であっても、社員によって、マッチング拠出かiDeCoか、どちらでも好きなほうを選べるようになったのです。これによってどんなメリットがあるのか説明しましょう。

マッチング拠出の場合ですと、会社の掛金以上にマッチングで本人が積み立てることができません。したがって、まだ若い社員で会社が出してくれている掛金が2000円とか3000円とかの少ない金額の場合、マッチングで出せる金額もそこまでということになります。

ところがiDeCoであれば、最高は2万円まで出せますから、会社が出す掛金が少ないようであれば、自分で積立てを増やしていくことが可能なのです。加えて言えば、会社の制度の中で並んでいる商品にあまり良いのがない場合、iDeCoは自分で金融機関を選べますから、良いと思う商品のあるところと契約することが可能になります。

35年間3%で積み立て&運用すると1481万円に

このように単に加入できる年数が延びただけではなく、様々なメリットが出てきたiDeCoは、資産形成の有利な手段として、活用したほうが良いと思います。もしあなたが会社勤めで、会社に確定拠出年金があったとしても、他の年金制度がなければ月額2万円までは積立てできます。もし30歳から65歳まで毎月2万円ずつ積み立てると、積立総額は840万円ですが、仮に3%で運用できたとすれば1,481万円になります。

加えてiDeCoは掛金全額が所得控除されるので、年収が500万円ぐらいとした場合、毎月2万円ずつを60歳まで積み立てると戻ってくる税金の合計額は約144万円になります(※概算ですからその他の状況によって変わることがあります)。iDeCoに関する様々な情報はNPO法人確定拠出年金教育協会のサイトを見ると、こうした税金の計算以外にも各金融機関の比較などがあるため、参考にすれば良いかと思います。

iDeCoに限りませんが、資産形成はなかなか一度にまとめてできるものではありません。少しずつでもいいので時間をかけてやるべきです。今回の法改正をきっかけにしてもう一度iDeCoの活用を考えてみてはいかがでしょうか。