世界中で問題化する“目に見えない多大な損失”

プレゼンティイズムは、世界中の会社組織で問題となっています。たとえばAさんは月収30万円をもらっているのに、体調不良のために健康なときの50%ぐらいしかパフォーマンスを発揮できないとします。その状態が1カ月続いたら、会社は15万円の給料を余計に支払った計算になるからです。

メンタルヘルスの不調だけではありません。たとえば腰痛がひどくて、長時間座っていると痛みで仕事に集中できない人もいます。そのために判断力が低下したり、ケアレスミスが増えたりする。今の季節は、花粉症が原因で集中力が低下するという人もいるでしょう。

休職者のアブセンティイズムは、目に見える損失です。それに対して、プレゼンティイズムは損失を把握することが難しいため、企業の方も認識が低いといえます。しかし多くの研究では、アブセンティイズムによる損失や病気等になった場合に治療にかかる医療費よりも、実はプレゼンティイズムのほうが企業のコスト負担は大きいということが示されています。また、プレゼンティイズムによる損失の大きさを疾患別に比較したところ、最も大きかったのはうつ病だという海外の研究もあります。

休職率が上昇すると業績は数年かけて悪化する

出勤していても実際にはプレゼンティイズムの状態である人が多いのであれば、メンタルヘルスの不調で休職している人は、氷山の一角ともいえます。ただし、メンタルヘルスの悪化は職場環境や長時間労働などの働き方が要因の一つとなっている可能性も高いので、休職者比率が高い企業ではその予備軍も多いと考えられます。

休職者の比率が高い会社ほど、予備軍のプレゼンティイズムも多く存在し、会社全体の生産性も低いのではないか――そのような仮説から、約400社に協力いただき、ご提供いただいたデータをもとに研究を行ったことがあります。

その研究では、2004年から07年の3年間に、メンタルヘルス不調の休職率が「増加した会社」と「増加しなかった会社」に400社をグルーピングしました。そして、この2グループで、07年から10年にかけて、売上高利益率(当期利益÷売上高×100)がどう変化したかをグラフにしたのが【図表1】です。

メンタルヘルス休職者比率と企業の業績

この時期はリーマン・ショックが起きて、産業界全体が不況で業績が悪化しています。そのなかで、休職率が増加したグループと、増加しなかったグループを比較すると、増加したグループは、落ち込み方がより激しいことがわかります。

しかも年数がたつにつれて、その差は開いています。従業員のメンタルヘルス不調の影響は、すぐに表れるのではなく、数年かけて業績を悪化させていることがわかります。